十字架の街 4

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   十字架の街 4



 いや、正確に言えば、ある朝のことだ。その朝、街は大騒ぎになった。どうしてだと思う? なんとある朝起きてみたら、街中の屋根の上のつるぎが、すべて別のつるぎに入れ代わっていたんだ。それも代わりに刺さっていたつるぎは、どれも同じデザインをしていたんだ。その剣の柄には、銀色の三日月に金色の矢が刺さっている紋章が彫り込まれていた。覚えているかい? ルガル・ディー家の紋章だよ。
 もう街は大騒ぎさ。街には古くから掟があってね。決闘の勝負によらなければ、屋根に刺さっているつるぎを別のつるぎに取りかえることはできないんだ。それなのに勝負もなしで、いきなりつるぎを抜いて、別のつるぎを刺してしまうなんて、このつるぎの街では許されない行為なんだ。
 人々は怒り狂って、ルガル・ディー家の末裔であるドクの下宿に押しかけてきた。最初は興奮していた人々も、よく考えると、こんな大がかりなことを一人でできるはずがない。それにルガル・ディー家の紋章を使っているのも、わざとらしすぎるのではないか、と疑問を持つようになり、何とか一応はドク一人を責めたてるのをやめることにした。それに町長や司法長官も、人一人を私刑にすることは許されないとしてドクの下宿のまわりを警備しはじめた。 こうして何とかドクも、そして同居人のヴィスも無事だったけれど、パンを一つ買いに行くにも寄ってくる人々が連日連夜おり、ドクとヴィスの精神をまいらせた。

 すでに突き刺さっているつるぎを間に挟んで、決闘者二人が斜めに傾いた屋根の上で向かい会う。そして審判者が投げ上げる瓦が屋根にぶつかり砕け散る勝負開始の合図。こうして試合が始まる。自分のバランスを取りつつ、相手のパランスを崩す。それがコツだった。その不規則な動きは、まるで独特の踊りを踊っているかのようにも見えるのだ。
 塔の屋根の下からは、群衆の声々が大きな一つの叫びとなって、決闘者が逃げられないように屋根の回りの空中にぐるりと壁をめぐらせている。
 つるぎの踊りは続けられ、勝負は何度も山場を迎え、人々の声もそのたびごとに盛りあがりをくり返す。そして最後の爆声が勝負の終わりを告げ、屋根には新しいつるぎが突き刺さるのである。
 決闘者の一人は、赤黒い髪に濃い青色の服を着たドクだった。
 街の人々が、それぞれ自分の家の屋根に、もとのつるぎを刺すために、ドクは連日のように決闘の申込みを受けることとなってしまっていた。決闘をいい加減にするわけにはいかない。それは決闘の掟に反することだ。結局、ドクは全力で決闘を行うことになった、ヴィスは連日のように心配している。僕だって心配だ。いつ足をすぺらせて屋根から落ちるか。だいだい毎日毎日、何試合も屋根の上で戦い続けるなんて、むちゃだ。
 でも一つだけ、新たに知ったことがある。ドクはつるぎの腕前も、けっこうなものであるということだ。やはりルガル・ディー家もモルタ・ルージュ家の人間も、今もつるぎの使い方だけは、徹底的に子供のころからたたき込まれているらしい。
 だけど、どんなに強くたって、いつかは負ける。それにちょっと足を滑らせるだけで、大怪我だ。強さには関係ない。だから僕らはとても心配だった。

 「死んでもいいか?」
 ある日の夜、ドクとヴィスの下宿で、僕らは夕食を取っていた。夕食後の静かな時間を会話もなく過ごしていた時、ふいに何気ない調子で、ドクがそう言った。きっとドクは、このまま決闘を続ければ、いつかは命を落とすことになると感じていたに違いない。
 おどろいてドクの方を見ると、ドクの目はヴィスの目を見ていた。
 「僕も連れて行くならな」
 当然のようにヴィスが答えた。僕は部外者だと思って黙っていた。
 ドクは、しぱらく黙って何やら思案した後、続けた。
 「じゃあ旅にでも出るか」
 「一緒にか?」
 「ああ、一緒にだ」
 「じゃあ行くか」
 それで決まりだった。予定は前向きなものに変えられた。その方が、ずっと二人らしかった。そして僕は、ほっとしたんだ。君も良かったと思うだろ?
 こうして二人は街を去った。途中まで僕も同行したんだ。途中の分かれ道で二人に別れを告げた。それから僕は、この街に来る前の目的の町に、ずいぶん遅くなってしまったけれど、向かうことになったんだ。
 これで僕の報告は終わりだ。新しい町に着いたら、また手紙を書くよ。
 君に会える日を楽しみにしている。


   連載第5回へと続く