燭台の火 ~1~

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燭台の火

~1~

 燭台の明かりをひとつひとつ、つけてゆく。
 燭台の明かりをひとつひとつ、消してゆく。

 長い長い回廊を歩き、燭台の明かりをひとつひとつ、つけてゆく。手元の燭台の上にのった蝋燭の炎から壁に取り付けられている燭台の蝋燭へと炎を移す。長い長い間、これが彼の仕事だった。この仕事について二十年近く、毎日欠かさず行っている。
彼の灯した明かりを頼りにして人々は歩く。彼の灯した明かりが、正しい方角へと人々を導くのだ。
 この東方一の規模を誇る由緒ある巨大な寺院。けれど一般信者にはほとんど開放されておらず、主に修行の場として使われている。
 生活は簡素なまでに単純化され規制されており変化が乏しい。各々が行う仕事は決められており、このような規則によって、巨大な組織は整然と動かされている。彼の役割は決められた侍間に、決められた燭台に火を灯すことであった。
 通常、与えられる役割はニ~三年で別の役割に変わるのが普通である。そうしで次々と新しい役割・・・次第に責任のある人を使う役割へと変わってゆき、指導者へと移行してゆくことが多い。もっともそのためには他の仕事も必要なのであるが。
 彼には権力闘争も、出世競争も無縁であった。ただ習慣と化した行動を何十年もの間、毎日、繰り返し続けてきた。
 一生を寺院の明かりを灯し、消すことについやしてきた。彼のはたしてきた行為を、ささいなことに過ぎないと馬鹿にする者も何人かいた。けれど彼の胸にあるものは後悔などではなく、深い満足感であった。
 順番に、それも決められた順番通りに燭台に明かりを灯してゆく。そして最後の一個に火が灯るのを見ると、すべてが良い具合になったと彼は感じ、満足するのだった。「これでいい、これでいい」と心の中で何度も頷く。
 たかが明かり付けと彼を軽んずる者は、今もいた。
 けれど彼は自分自身の仕事に満足しており、誇りを持っていた。


その2へ続く