燭台の火 ~2~

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燭台の火

~2~

 彼はこう考えていた。

 他の誰でもない、彼が灯した明かりに導かれて歩くのだ。どんな高僧であれ。

 この寺院の中を歩く者は、早朝の祈祷のために、まだ星々が沈む前にすべての僧が大広間に集まる時も、まだ簿暗い時に朝食のために食堂にぽとんどの僧たちが集まる時も、そして夕刻の祈りの時も、夜の祈祷の時も、すぺて彼の灯した明かりに導かれて僧たちは行動するのだ。

 真っ暗な夜闇の中を、彼は手元の蝋燭の明かりのみで闇を分け進んでゆく。彼の通った後には、ひとつ、またひとつ、と明かりが生み出されてゆく。

 そうして彼の手元から枝分かれした明かりが、少しずつ次第に闇の中から何百年にも渡って作り上げられてきた壮麗な寺院の姿を浮かび上がらせてゆくのだ。

 彼の通った後には、美しい回廊が続き、庭画の小道や噴水が現れる。意匠を凝らした壁が絵画のように揺らめき、吹き抜けの天井では石の彫刻が、生命あるもののごとく姿を見せる。石畳の廊下が異界へ導く通路の如く出現し、暗闇の中に形の良い無数の窓の連続が影絵のごとく配置される。

 そんな自分が通ってきた場所を振り返って見る時、彼はこの壮麗な官殿にも似た寺院を、まるで自分がたった今、作り出してきたような錯覚を覚え、そのたびに、そんな大それたことを考えてしまったことを神様に詫びながらも、軽い目眩を感じることを止めることはできなかった。

 最後の明かりをつけおえると、彼はいつも何か価値あることやり遂げたと言う深い満足感に包まれる。「良し良し。今日も、いい具合にできたぞと感心して、しばらく明かりを挑めてみる。

 彼が彼の仕事に出かける時の持ち物は、太い蝋燭が数本。これらは腹に下げられた袋に入れられている。そしてマッチの入った金属の小箱である。この小箱は雨の日に持ち歩いても温気が入らないように、密封できるようになっている特別製の箱である。これは彼にとっては宝であり、非常に大切にしていた。

 火の光を必要としない昼間、彼はゆっくりと歩き、寺院中をめぐって燭台の上の蝋燭が小さくなっていないかを調べ、短くなっているものを取り換えて歩くのだった。

 小さくなってしまった蝋燭を集め作業場に持って帰り、鍋の中に入れてゆっくりと温めてとろりと溶かし、型に注ぎ込む。真ん中に糸をたらして、そのまま放って置けば新しい蝋燭が出来上がるというわけだった。

 できあがった蝋燭たちを、型から取り出し念入りに調べ、満足がいくと木箱に並べてしまっておく。木箱はすずしく火の気のない部屋に運ばれ、出番が来るまではしまわれる。

出番が来ると彼に取り出され、燭台の上に飾られるのだった。


     その3へ続く