燭台の火 ~3~

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燭台の火

~3~

 寺院の蝋燭は、ほとんどが一定の大きさであった。それは炎の大きさを統一するためであったが、その他に、特別な形の燭台のために、大小さまざまな長さや形の蝋燭が作られていた。それらの普段は作られない蝋燭が必要になると、彼はしまわれている型を取り出してきれいに磨き上げるのだった。
 特に、月越祭の日にのみ使われる、寺院の紋章の浮き彫りがほどこされた燭台の型は、出番の日の一月ほど前から数十個の型がすべて取り出され、型の都分が念入りに磨き込まれる。
 できあがった蝋燭を型から取り出した後も、型の隅に蝋の残りがこびりついていないか調べ、一つ一つきれいに洗い上げる。
 そうして、くっきりと燭台の表面に浮かび上がった寺院の紋章も、炎がつけられてしまえぱ、ゆるやかに溶けてゆく。彼はそれを誇らしげに見つめるのだった。
 瞑想の間には特別な蝋燭が置かれている。
 直径五十センチほどの底の浅い大皿型の蝋燭である。この蝋燭は、鈍い色の大皿の中にぴったりと埋め込まれているために蝋が溶けても、そのまま大皿の中に溜まり、いつまでもこぼれず、何日間も連続して使うことができる仕組みになっている。
炎がつくと、溶けて液体に変わった蝋燭の上の炎の姿は、まるで水盤の上に炎が浮いているように見え、また溶けた蝋の表面にも、炎が鏡にうつしたようにうつり込み、ニつの炎の姿が見えるのだった。
 この蝋燭は、広いが窓のない室内の中央に置かれている台座の上に乗せられている。
 昼間でも暗い室内。日が沈むと、この部屋の蝋燭に火が灯される。
 それは室内にたったひとつきりの明かりとなる。
 じっと炎を見ていると、どこからか入ってくる肌には感じないゆるやかな風が時折、炎をゆるゆると揺らす。そんな炎の動きにつられて、壁にうつった影も部屋全体でさざめくのだった。それはどちらも音のない動きであり、室内の動きだけを見ていると、何か不思議な感じがしてくるのだった。
 彼はこの部屋のそんな雰囲気が気に入っていた。
 今夜も燭台の上の蝋燭に順番に炎をつけながら歩いてゆく。
 そうして彼は、ある燭台の前にたどりついた。
 炎をつける前に、彼はしばしその燭台を眺め見た。
 彼は、この燭台の形が気に入っていた。

     その4へ続く