銀色ルーペ 01

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銀 色 ル ー ペ 1


 その暖かな日、たんぽぽの花が、いくつも黄色く咲いているのを見つけた。
 なぜ、こんなにも鮮やかに咲くのだろうと、文都はその黄色に引きつけられた。
 制服のシャツの上に着た若草色のセーターを、程よく温めてくれる太陽の日差しが気持ち良すぎてたまらない。暖かい匂いを吸い込みながら歩いていると、ほのかな風も心地よくて、このまま空でも飛べそうなほど気分が良くなってしまう。これ以上、気持ち良くなったら、どうにかなってしまいそうだと、文都(ふみと)は思えてきた。
 そうこう思いながら並木道を歩いているうちに、やがて砂色をした煉瓦作りの大きな建物が見えてきた。砂漠の古代文明を連想させるような遺跡めいた建物だった。友人の砂流(さりゅう)の父親が館長を勤めている私立図書館だ。今日は砂流は放課後に、ちょっとした用事があるとかで、文都は先に図書館へ行って待っている約束をしていた。
 入口の漆黒のプレートには「ライブラリイ」と金色の飾り文字で刻みつけられている。その文字を横目に扉を開けて建物の中に入ると、本の匂いではなく、ほのかなハーブの香りが漂っている。本の虫除けに使っているそうだが、いい香りだ。
 そして、いつ来ても静まりかえっている。制服を着た警備員が建物の一部であるかのような目立たない姿で立っていた。
 この図書館では、うるさい連中や、寝に来ている連中は、警備員が容赦なく追い出してくれるところが、文都の気に入っているところだった。だから客層も研究者風のタイプが多い。一人一人が何か熱心に調べ物をしている。読書用の施設と言うよりも、研究用の施設と言う雰囲気だ。紙をめくる音まで聞こえてくるほど、いつでも静かだった。
 おまけに友達の特典として、閉架式の書庫の中にまで入ることができた。砂流の父親が許可してくれたのだ。この図書館の館長になるまでは、砂漠に埋もれた王国の歴史を研究するために、海外を放浪していたと言う人物だ。よく、いろいろな冒険物語の本を文都に教えてくれ、そのどれもが文都の好みにぴったりと合うものばかりで、文都を何時間もの間、夢中にさせてくれた。
 どっしりとした木の書棚の間を、本の背表紙を眺めながら歩いていると、軽く肩に手を置かれた。ふりかえると友人の砂流だった。砂流は黙ったまま親指で床を指した。それだけで文都は砂流の言おうとしていることを理解し、二人で黙って廊下に出た。今日は、二人で図書館の地下室の展示を見る予定なのだった。展示内容は『古地図の不思議』だ。
 「遅くなって悪かったな」
 天井の高い廊下に出ると、砂流は遅くなったことをわびた。
 「別に。たいして遅くないよ」
 文都は全然気にしていない。
 「これは、おわびの印」
 砂流はそう言って鞄の中から、小指の先ほどの小さな丸い桜色の鉱石を取り出し、文都に差し出した。
 「途中で買ってきたんだ」
 砂流はそう付け足した。
 「それで、さらに遅くなったわけ?」
 文都は両手でうれしそうに受け取りながら、砂流をからかった。
 「選ぶのに時間がかかったんだ。それが一番きれいな奴だったんだぜ」
 「うん。本当にきれいだ。ありがとう」
 そう言いながらも、文都は手の中の桜色の鉱石を、どんな風に飾ろうかと、いろいろと考えをめぐらせていた。碧色の鉱石ばかりを入れてある収集箱の真ん中に置いたら、いい感じなのではないかとか、いろいろと考えてしまう。
 そんな文都の様子を、砂流は横から満足そうに眺めていたが、
 「それに、ちょっとした『しかけ』もあるんだぜ」
 と自慢げに付け足し、光にかざしてみろよ、と窓を示した。文都が言われたとおりにしてみると、桜色の鉱石の真ん中に無数の小さな三角が透けて見えた。その三角の集まりはまるで薔薇の刻印のような形を形成していた。
 「すごいね。よく見つけたなあ」
 鉱石に浮かび上がった桜色の薔薇の刻印に見とれながら文都は感嘆していた。
 「まあ、目がいいから」
 くすりと笑って砂流は答えた。砂流が目利きなのは事実だった。
 「でも、いいのかい。本当にもらっても?」
 「いいさ」
 砂流は軽く答えた。そして、ちょうど 地下の展示室にたどりついたことに気づき、中に入ろうと文都を促した。文都は鉱石をポケットにしまうと、展示室の天井まで届く大きな木の扉を押している砂流を手伝い、重い扉を二人で開けて中に入った。



連載第2回へと続く