銀色ルーペ 02

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銀 色 ル ー ペ 2


 海賊たちが描いたと言われる宝の地図。古代の地球を描いたと言う、象らしき生き物の上に地球が乗っかっている不思議な形の地図。初めて船や、あるいは飛行機で世界一周をなしとげた人物の航路を示した地図。海底に沈んだ海賊船や有名な客船の場所を記した海底地図。幻の大陸の地図。すでに滅んだ古代文明の地図。
 古代エジプトで描かれたと言う、死者の世界の地図。同様に地獄の案内図。(誰が使うのだろう?) 想像上の生き物たちの生息地が描きこまれている世界地図。(誰が確認したのだろう?) 星の移動を描いた天体地図。古びてしまって何が描かれているのかわからなくなってしまっている地図。
 地下展示室には、そんな誰が使うのだろうと思うような地図ばかりが展示されていた。けれど二人にとってはどれも、わくわくするような魅力を持っていた。薄い硝子板の下に広げられている地図の台へと飛びついてはのぞきこみ、次から次へと移動してゆく。
 そこに描かれた道を指先でなぞっては、たどってみる。
 「すごいなあ。砂流、ここにある地図の世界を全部、旅することができたら、すてきだと思わない?」
 「そうだな。いつか、ひとつひとつ、ゆっくり時間をかけて見てまわりたいな。・・・そう言えば」
 砂流は上半身を斜めにして振り返った。
 「何?」
 「この街の地図もあったな」
 「え、どこに?」
 「こっちだ」
 砂流に導かれるままに、文都は後を追った。
 「え? これが?」
 それは極彩色に色づけされた、架空の街の地図だと思い込んでいた地図だった。四季の最も美しい姿が描きこまれている。黄金色の銀杏並木の大通り。色分けされた路面電車の路線を追ってゆくと、次々と街の魅力をたどることができる。
 月星がめぐるからくり時計塔には雪が積もり、瀟洒な螺旋の博物館は新緑におおわれている。春の花々に埋もれている白亜の学校の講堂にはステンドグラスがはまり、ゴシック様式の大学の池にはボートがいくつか浮かんで水遊びを楽しんでいる学生の姿も見える。そして、かつての豪商たちが作った美しいタイルで装飾された天蓋におおわれた商店街。中央広場では大道芸が道行く人々の足を止めている。個性ある貴族の館が立ち並ぶ郊外の森の外れでは、サーカスの五角形の天幕に入る人々の姿が列となって見える。
 そんな街の上空には、アーモンド型の飛行船が、ぽっかりと浮かんでいる。街を流れる川には遊覧船。運河にかけられた跳ね橋は、ちょうどあげられるところだ。そして海岸には・・・
 そう言われてみれば、どれもこの街にある建物だ。そして配置もあっている。でも、あまりにすてきに描かれて過ぎていて、文都は気づかなかったのだ。
 「そうだよ。しかも文都のひいおじいさんが描いた地図なんだぜ」
 砂流はあきれたように言い、気づかなかったのかい、と言う表情で文都を見た。
 「そんなこと全然知らなかったな。どうして砂流は知ってるのさ?」
 「だって図書館に寄贈されたものだからさ。寄贈者リストで見たことがある」
 「へえ、そうなんだ。でも・・・いい地図だね」
 文都は硝子板に顔を近づけながら言った。一つ一つ丁寧に描き込まれており、きれいに色付けされている。
 「ああ。ずいぶん、この街が好きだったんだってわかるよ」
 砂流も文都にくっつくようにして顔を近づけて地図をのぞきこんだ。
 「ずいぶん、びっしりと描きこんであるな。拡大鏡を持ってこればよかったな」
 砂流はそう言って顔をあげた。その時、まだ屈み込んで地図を見ている文都の背中の鞄に携帯用のルーペがぶら下がっているのを見つけ、さっと取り外した。
 「借りるよ」
 「え? ああ、だめだよ、砂流。そのルーペは見えないんだから」



連載第3回へと続く