銀色ルーペ 03

文字の大きさは、こちらで変えられます→ 小 | 中 | 大 |

銀 色 ル ー ペ 3


 文都は砂流が自分のルーペを使おうとしているのを見てとめた。
 それは使いようのないものだった。見かけは、手の中に収まるくらいの小さな携帯用のルーペ(拡大鏡)なのだが、見ようとするとぼやけてしまって、何一つとして見えないのだった。死んだ曾祖父の物で、今は文都のものだった。ルーペとしては使いようがないけれど、デザインが気に入っていたので、文都は鞄の飾りとして使っていたのである。
 そのことはすぐに砂流も気づいたようだった。
 「ぼやけて何も見えないぞ」
 「うん。こわれてるんだ」
 文都は答えた。ルーペは、砂流の手の中に入ってしまうほどの大きさで、厚みのある菱形をしていた。よほど使い込んだのか、それとも始めからそんなデザインなのか、金属製にもかかわらず溶けてしまったような、丸みのあるやわらかそうな感じだ。いぶし銀加工をしてある古めかしいデザインだが、どこか洒落た唐草模様が彫りつけられており、文都は気に入っていた。その銀色のケースにレンズの部分がしまえるようになっている。レンズとケースはくっついていて離れない。だが小さなレンズの持ち手代わりになって、ちょうど具合がいいような仕組みになっていた。
 「レンズは割れてないみたいだけどな」
 砂流は引き出したレンズを確かめながら言った。
 「レンズが割れる以外に、こういうものが壊れることなんてあるのか?」
 「でも何も見えないだろ?」
 もうすでに見えないことを色々と確かめ済みの文都は、砂流が不思議がって、あれこれとルーペを色々な角度から見ている姿をながめながら言った。
 「見えないことは見えないけど・・・壊れてるって言うのは変だな」
 「レンズが曲がってるんじゃないかって、夏伽は言ってたよ」
 夏伽と言うのは、二つほど年上の文都の兄・詩都の仲のよい友人である。ただし文都とは相性が良くなかった。少なくとも文都はそう思っている。
 「なるほどなあ」
 そう言うと、砂流は地図の上にルーペをそっと置いた。手持ち無沙汰に、路面電車の路線の上をなぞらせて移動させてゆく。
 「あ・・・」
 突然、砂流が声をあげた。



連載第4回へと続く