銀色ルーペ 07

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銀 色 ル ー ペ 7


 「どうしたんだい、その鍵?」
 懐中電灯の光をあてられた地下展示室の入口の鍵穴に、砂流がさっさと鍵を差し込んで開けるのを見て、文都は驚きの声をあげた。
 「父さんが持ってる合鍵を借りてきたんだ」
 「じゃあ、おじさんには言ったの?」
 「言うわけないだろ。代わりに、よく似た鍵を置いてきたから、たとえ見たとしても一晩くらいなら気づかないだろ」
 「大胆だなあ」
 「人の家にしのびこんでおいて、よく言うよ」
 砂流はくすりと笑った。そう言えばそうだと思い至り、文都もつられて笑う。
 展示室内に入ると、さっそく目当ての地図にかけよる。室内に入ってしまえば、気分も落ちついてきて、文都も好奇心の方が強くなっていた。
 すでに砂流は台から硝子板を外してランプ型の懐中電灯を台の上に置き、ルーペを硝子越しではなく直接、地図にあててのぞきこんでいる。
 「確かこの辺りだったな」
 砂流は、さぐるようにルーペを滑らしながら地図上を移動させてゆく。
 「あったぞ」
 砂流はそう言うと、赤い小さな丸い形の紙を取り出して、その場所に張りつけた。
 「『南西へ三ツ』って言うやつ?」
 「ああ」
 「でも、どういう意味なんだろう」
 「文都と昼間別れてから、いろいろと考えてみたんだけど、文都のひいおじいさんは、通常では見えないほど小さな文字で、この地図に書き込みをしている。この特製の拡大鏡でしか見られないように」
 「うん」
 「ってことは、このルーペを使うんじゃないかと思うんだ」
 砂流はそう言って顔を上げた。そして背中に背負ったリュックを下ろし、中から定規と方位磁石を取り出した。
 まず磁石を地図の上に置き、南西の方角を探す。次に定規の片方の端をさっき印として張りつけた赤い丸にあて、南西の方角に正確に線を書くように置いた。そうしておいて、携帯用ルーペの銀色のケースの部分を三個分、定規にそって移動させる。
 「ああ、『南西へ三ツ』だね」
 思わず文都は感心して声を上げる。
 「こうじゃないかと思うんだけど」
 砂流はそう言って、銀色のケースを三個分、定規にそって移動させ、レンズをあててのぞきこんだ。
 「あったぞ」
 「本当? 何て?」
 砂流の言葉に文都は、ばんざいと飛び上がりたくなる。
 「『北東へズット』」
 そう言いながら砂流は、赤い丸の印を張りつける。もくもくと定規を磁石を使って新しい線を作り、印の赤丸をいくつも張りつける。
 「ルーペのケースで長さを合わせて地図上で移動させると次のポイントへ移動し、次の文章が読めるしかけってわけだ。ルーペと地図の両方がなければ解けない仕組みだ」
 自分であらためて理解しようとするように砂流は説明をした。文都は、どきどきしながら見守る。
 「でも北東の先には何があるんだい?」
 砂流の手元を見つめながら文都は聞きたがる。
 「海の彼方さ」
 砂流の言葉に、文都はがっかりした。
 「じゃあ違うのかな」
 「いや、読み方は、これであってるはずだ。だけど『南西へ三ツ』の前にも何かがあるはずなんだ。それを見つけないと」
 「この地図のすみからすみまで見なくちゃいけないってこと?」
 そんなに大変なことになるとは思っても見なかった文都は、あまりに気が遠くなりそうだった。
 「お腹空いちゃうよ」
 ぽつりと、そうもらした文都に、いきなり砂流は爆笑した。
 「はは、文都らしいな。いいよ、何か夜食を食べに行こう」
 「何だよ。お腹が空くって言っただけで、お腹が空いてるとは言ってないだろ。砂流ってば、僕のこと食べ物のことしか考えてないって馬鹿にしてるだろ」
 ぷい、と文都は顔をそらした。ちょっとすねているのが自分でもわかる。
 「してない、してない。おいしいとこ知ってるんだ」
 そう言うと砂流は地図を丸めた。
 「どうするんだい? まさか盗むんじゃ」
 心配して文都が、おそるおそる尋ねる。
 「まさか。複写機で複写するんだよ」
 砂流は片目をつぶって、そう答えた。



連載第8回へと続く