銀色ルーペ 08

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銀 色 ル ー ペ 8


 街に出て、まずは、まっさきに地図の複写をした。二枚複写をして文都と砂流が、それぞれ一枚づつ持つ。お店に入ると、夜に子供の姿は目立つ。とても何か食べられそうには思えないな、注文しただけで家出と間違われて警察にでも連れていかれそうだ、と文都は心配していた。
 「ここだよ」
 とぼとぼと砂流の後をついて歩いていた文都は、砂流の声に顔を上げた。見ると蔦のからまる白亜のコロニアル風のカフェだった。温かそうなおいしそうな香りが、路上にまで漂ってきている。
 「でも、こんな夜遅くに子供が入っても大丈夫かな」
 心配そうに文都が言う。
 「大丈夫だよ。ここは結構、うちの学校の生徒たちも利用してるお店だからね」
 ためらっている文都を安心させるように砂流は笑って答えた。
 「さ、入ろう」
 そう言うと、砂流は文都の手をつかんで店のガラス戸を開けた。
 店内には確かに、文都の学校の生徒たちの姿が、あちこちに見えた。制服姿の生徒もいる。まるで学校の食堂だ。皆が皆、夜だと言うのに違和感なく歓談している。同じ学校の生徒の意外な一面を見て、文都はちょっと驚いて店内をあちこち見回していた。
 「あれ、ちびすけたちじゃないか」
 聞き慣れた声に呼び止められ、文都と砂流は声の主を探した。すると夏伽と詩都が丸テーブルに座って、のんびりと食事をしているではないか。文都はびっくりして二人の座るテーブルにかけよる。砂流もゆっくりとついてきた。
 「なんだ。先に帰ったんじゃなかったの?」
 てっきり詩都は家に帰っているとばかり思い込んでいた文都は、詩都に詰め寄る。
 「うん。幽霊館へ行ってきたところなんだ」
 詩都は、にっこりと笑って答えた。文都が驚いている理由などには、気づいてすらいないようだ。まあ、すわれば、と文都と砂流に席を進める。砂流はさっさと座ると、文都の分もウエイターに注文した。
 「だって灯台へ行ってきたところだって、さっき言ってたじゃないか」
 「うん、言ったよ。灯台を見てきたところだったから。それから幽霊館へ行くところだとは言わなかったっけ?」
 のんびりとした口調で詩都は答えた。
 「言わなかったよ!」
 夏伽の奴、わざと気づいてて言わなかったな、と文都は夏伽の方を見る。ところが夏伽は勾玉ジュースのカップを手にして、知らんぷりをしている。とりつくしまもない。しかたがなく文都は、たんぽぽジュースを飲んでいる詩都の隣に腰掛けた。たんぽぽと同じ色をした液体が文都の目を引く。
 幽霊館と言うのは、学校の敷地の外れにある、もと校長の家族が暮らしていた廃館のことだ。昔は留学生たちをも住ませており、音楽サロンにもダンスホールにも使えそうな六角形のホールを持つ典雅な館であったらしい。なぜか豪奢な室内装飾や家具も、室内に置かれたまま百年以上前から放置されているために、薄気味悪い様子になっている。
 学校は立入禁止にしていたが、一部の生徒たちにとっては肝試しの場所として使われていた。最も、ほとんどの生徒は近づきもしなかった。とにかく幽霊を見たと言う噂がたえない場所であり、古井戸に落ちて大怪我をした生徒もいるくらいだ。
 まだ文都は、館の側に行ったことはない。近くまで行って見たことしかなかった。だから先を越されたようで、ちょっぴりくやしかった。特に夏伽に越されてしまったことが。それも詩都を連れて行かれてしまったとなると二倍悔しい。
 「へえ、それで幽霊は見れた?」
 砂流は興味深げに、詩都と夏伽に質問をしている。
 「さて、どうかな。自分で確かめた方が、こういうことは楽しいからね。秘密にしておくよ」
 そう行って詩都は笑ってすました。夏伽も黙っている。
 「ところで二人は、どこへ行ってたんだい?」
 詩都の突然の質問に、文都と砂流はどきりとして顔を見合わせた。ごまかそうと視線が交わされる。
 「ひみつ、ひみつ」
 文都が、あまえるように言う。見逃してと詩都に頼む時の癖だ。
 「ふうん。まあ、いいけどね」
 そうこう話しているうちに、文都たちが注文した料理もできあがったようだった。
 小さなカップに入った、ほくほくのじゃがいものスープ。焼き立ての三日月パイ。新緑色のキッシュに、早春の花々グラタン風。小さな赤い花がのっかっている一口ケーキがおやつに添えられている。これらが大きなお皿に、きれいに配置されて運ばれてきた。
 「おしいそうだね」
 と詩都が、微笑みながらつぶやいた。



連載第9回へと続く