銀色ルーペ 11

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銀 色 ル ー ペ 11


 文都は黄色の路面電車に飛び乗った。休日の早朝と言うこともあって、まだ乗客はもいない。誰もいなくても電車は走るんだ、と文都はちょっぴり感慨を抱く。黄色い電車は街を循環する環状線だ。赤い太陽のマークが側面に描かれている。
 青は海岸行き。緑が丘行き。紺の車体に金色のお洒落な線が入ったのは、通学によく使う学園行き。間違えようがない。
 でも実は、このことは詩都が教えてくれたことだ。昔、この街に来て間もないころ、丘の上に来ていた移動遊園地の大観覧車にのった時に、詩都がひとつひとつ指さしながら教えてくれたのを思い出した。
 しばらく揺られているうちに目的の駅に到着する。給水塔は森の中に隠されている。駅からは歩いて十五分くらいだろうか。誰ともすれちがわない人けのない道を、文都は早足で急ぎ気味に歩いていった。
 とうとう鉄柵で囲われた給水塔にたどりつく。まわりに誰もいないのを確かめて、文都は鉄柵をのりこえた。鉄柵の中は草が生い茂り、荒れ放題だ。反ズボンから出たむき出しの足に草がちくちくとあたって不快に感じたので、なるべく足早に草地を通り抜け、給水塔にたどりついた。
 赤茶色の煉瓦作りの円柱型をしている。見上げるとずいぶんと背が高い。周囲をぐるりと一周してみたが、どこにも入口らしき扉がみあたらないので、文都は何度も周囲を歩き回ってしまった。けれど、やはりなかった。唯一、それらしいのは、外壁に螺旋を描くように打ちつけられている、さびついた金属製の把手だ。
 これしかない。
 まよっている時間はなかった。
 螺旋を描く階段を登ってゆく。外壁に楔のように打ちつけられた階段は梯子に近いもので、上るには手足を使わなければ危ない。
 ぽきりと錆びついていた鉄が折れた。バランスを失い、指を壁の隙間に入れてつかもうとするが無駄なあがきだ。文都は自分の体が、どすりと地面に叩きつけられ、地面が振動するのを感じる。ああ、しまったな、と最後に文都は思った。



連載第12回へと続く