銀色ルーペ 13

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銀 色 ル ー ペ 13


 翌日、学校に行くと砂流は口をきいてくれなかった。
 けんかぐらいなら、これまでも何度もした。でも仲直りしてきた。今回も、きっと許してくれるとは思っていたが、仲直りのきっかけは必要だった。だからきっかけをつかもうと砂流に歩みよろうとするのだが、どれも避けられてしまった。手紙を書いてみたけれど受け取ってくれない。
 一人で、ぽつんと花壇の端に腰掛けて昼食を取った。砂流と喧嘩していることについて級友にあれこれと聞かれたくなかったので、さっさと上級クラスのある校舎の方へ逃げてきたのだった。ここなら一人になれるし、話しかけてくる者はいない。
 砂流と話をできないと言うのは、つまらなかった。
 ふと何気なく視線をさまよわせているうちに、見慣れた姿が歩いているのに気づいた。詩都と夏伽だ。二人は上級クラスのある旧館から出てきたところだった。新館よりも旧館の雰囲気の方が文都も砂流も好きだった。図書室が旧館にあるので、旧館にもよく出入りしている。旧館はアールヌーボー様式が取り入れられた、繊細でどこか不安定さを感じさせる印象の建物だ。
 詩都と夏伽は並んで歩きながら、マーガリンが挟まれたコッペパンをかじっていた。手にはおそろいの牛乳瓶を持っている。同じ店で買ったのだろう。南十字星印の刻印が押された蜂蜜入りの学校の食堂の特製牛乳だ。これは、すぐに売り切れてしまう人気商品なのだ。よく手に入れられたな、と感心しながら二人を眺めていると、二人も文都の存在に気づいたようだった。歩いている方向を変えて、文都の側に近づいてくる。
 「どうした、面倒みのいい子守は一緒じゃないのか?」
 夏伽が、にやりと笑って言った。
 文都は答えたくないので黙っていた。
 「だめだよ、夏伽。からかっちゃ。喧嘩しているんだから」
 詩都が苦笑いをしながらクギをさす。
 「へえ、怒らせたのか。・・で? 見捨てられたのか?」
 「ほっといてよ。大人だって仲直りをするのは難しいだろ!」
 文都は邪険に夏伽の言葉をさえぎる。
 「簡単さ。知りたいか?」
 にやにやと何か悪巧みをしているような笑いが気になったが、文都は聞き返した。
 「なんだよ?」
 「相手を、ぎゅって抱きしめて、大好きだって言うのさ」
 夏伽はおどけた身振りで、そう言った。隣では詩都がそれを見て笑っている。
 「・・・そんなことしなくても、僕らは今まで仲直りしてきたよ」
 文都は信用していないと言う目つきで夏伽を見返した。ろくでもない年上だ。しょうもないことばかりして年下をからかうのだから人が悪い。
 「詩都、こんな奴とつきあわない方がいいよ。頭が悪くなる」
 文都はそう言って夏伽をにらむと、さっさと自分の校舎の方へと歩きはじめた。



連載第14回へと続く