銀色ルーペ 14

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銀 色 ル ー ペ 14


 校舎の屋上で風に吹かれながら、砂流はランチボックスを開けて一人で昼食を取っていた。日差しが暖かく気持ちのいい日だ。一人でいるには惜しい場所だと感じる。
 砂流は文都が自分に黙って勝手に一人で給水塔に行ったあげくに、怪我をしたことについて怒っていた。しばらく口をきかないことに決めた。そうして実行していたのだが、けれど、どこか上の空だった。なんだか、どうでもいいことのように思えてくる。つまらないのだった。
 さっさともとに戻ってまた、いろいろと一緒に楽しいことをしたいと言うのが本心だった。それで文都の姿を探したのだが、どこにもいない。他の級友たちと一緒に食事をしているかと思っていたが、どうやらどこかへ行ってしまっているらしい。まあ、放課後でもいいさ、と思っていたのだが、今度は放課後になると、砂流が話しかける間もなく、文都はさっさと一人で帰ってしまった。
 まいったな、と砂流は額に手をあてて対応策を考えはじめた。

 今日も学校へ行こうと文都が家を出ると、扉を開けたすぐ外に詩都と、詩都をいつものように迎えに来ていた夏伽が立っていた。いつもなら二人とも、文都よりも一足先に学校へ向かっているはずだった。
 「どうしたのさ?」
 文都がいぶかしんでたずねると、二人は顔を見合わせて意味深に、にやにやと笑いを交わす。なにかおもしろいことでも隠しているような笑いだ。
 「なんだよ、詩都まで!」
 腹を立てて文都が言うと二人は突然、耐えきれないように爆笑し、背の高い夏伽が、ひょいと文都の鞄を取り上げ、
 「今日はこれはいらないだろ?」
 と言い捨てて走り去ってしまった。去りぎわに詩都が振り返り、いつのまにか文都の鞄から取り外した銀色の携帯ルーペを、文都に投げてよこす。文都は放物線を描いて飛んでくる銀色の物体を、あわてて受けとめた。
 「なんだよ! 割れたらどうするんだよ? それに僕の鞄を、どうしようって言うんのさ?」
 訳が分からず、文都は二人を追いかけようと、二階にある玄関から外へ出るための階段を駆け下り道路に出た。すると、向かいの家の壁に砂流がよりかかっていた。
 「砂流・・・」
 文都は走りかけていたのをやめて、砂流の顔を見る。ひさしぶりに砂流の顔を正面から見たと感じた。
 「おはよう。給水塔へ行こう」
 砂流はいきなり、そう誘いをかけてきた。
 「だって今日は学校じゃないか」
 文都は面食らって、どもりながら答える。
 「ルーペは今も持ってるよな?」
 けれど砂流は、かまわずに聞いてくる。
 「ああ、もってるよ」
 文都は手の中に握っているルーペを手を開いて見せた。
 「じゃあ行くぞ」
 砂流は文都の手をつかむと、返事も待たずに引きずるようにひっぱってゆく。
 「何しに行くんだよ? 階段が壊れてるから、もう登れないよ」
 どうして砂流がこんなことをするのか、文都にはさっぱりわからない。
 「行けばわかるさ」
 砂流は時々、こんなふうにすごく強引な時がある。何か考えていることがあるのだと言うことぐらいはわかるのだけれど、何を考えているのかまではわからない。こういう時はいつも文都は押し切られてしまうのだ。
 その上、、黙って一人で給水塔に行ってしまったことも、まだ悪いと思っているし、結局、文都は黙って砂流にひっぱられて行った。
 「鍵はあったんだ」
 「鍵?」
 砂流はこの間、文都が落ちてしまった給水塔の階段を、ためらいもせずに、さっさと登ってゆく。
 「砂流、危ないよ」
 文都は友の身を心配した。
 「だったら、文都はそこで待ってなよ」
 そっけない態度が返ってくる。この間のことをまだ怒っているんだろうか。
 「給水塔に何かあるの?」
 すいすいと砂流は登っていき、文都の声が届きにくくなる。先日、文都が落ちた場所はとっくに通りすぎていた。うまくよけたようだった。
 何が起こるのか見たい。僕のルーペも持っていってしまったし。そう思って、文都はあわてて砂流の後を追った。
 この間、文都が落ちた壊れた場所に文都が差しかかった時、先を登っている砂流は、振り返って文都がその場所を通りすぎるのを確認してから再び登りはじめた。だが文都は、友のそんな行動には気づかなかった。
 給水塔の屋上にたどりつくと、砂流が待っていて、文都が柵を越えるのを手伝ってくれた。なんとか無事に塔の頂上にある小さな小屋に足をつけることができた。円柱の塔と同じ円柱の壁に、円錐形の朱色の屋根がついている。周囲は少しでっぱっていて、壁の回りを歩くことができた。
 下を見下ろすとずいぶんと高い。まるで展望台のような眺めだ。文都は同じように隣に立って、まわりの森を見下ろしている砂流の姿を目にした時、やっぱり「こういうの」がいいと感じた。隣に砂流がいるのがいい、と。
 そう思って砂流の横顔を見ていたが、突然砂流は壁の方へ向きを変え、壁にはまっている錆びついた鉄の扉に手をかけた。
 ああ、その扉の鍵がないんだった、と文都は思い出した。
 けれど扉には鍵はかけられていなかった。けれど錆が鍵の役目をはたしていた。ちょこっとだけ開いた後は、びくともしない。文都も手伝った。それでもなかなか動かない。二人して体重をかけて、やっと子供が一人通れるくらいにまで引き開けた。
 「開いたね」
 文都が息を切らしながら、それでも扉が開いたことがうれしくて砂流に笑いながら言うと、砂流もにやっと笑い返して、はいろうぜ、と言った。



連載第15回へと続く