銀色ルーペ 15

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銀 色 ル ー ペ 15


 順番に塔の中へと入る。
 そこは閉鎖されて以来何十年間も人が入っていない場所だった。
 室内はガランとしていた。ただ無愛想な古めかしい赤茶色の金庫が一つあっただけだった。あとは埃が灰色の雪のように全体的に積もっている。
 砂流は室内をぐるりと見回した後、ためらわずにその古めかしい赤茶色の金庫に近づいた。少しの間その金庫を眺めた後、銀色のルーペを取り出し、レンズを引き出すと、レンズの方を持って銀色のケースを金庫の把手の部分にあいている菱形の穴に差し込んだ。そんなところに穴があったのか、と文都は初めて気づく。
 しかし砂流が何のために、その穴にルーペのケースを差し込んだのかまでは気づかなかった。ゆっくりと砂流がルーペをまわしてゆく。がちゃんという音で、やっとルーペのケースが鍵になっていたことに文都は気づいた。
 文都は思わず両手を握りしめる。どきどきしているのが自分でもわかる。砂流が赤茶色の金庫の扉をゆっくりと開け、中を覗き込んだ。砂流の背中で文都からは金庫の中は見えない。文都は、ただ待ち続けた。じっと緊張しながら。
 中には木のオルゴールが入っていた。表面に螺鈿細工がほどこされている手の込んだものだ。しかしこのオルゴールにも鍵がかかっていた。しかも今度は鍵穴らしきものすら見あたらない。
 お手上げだね、と文都はつぶやいた。
 砂流は黙って何か考え込んでいる。
 ところで、どうしてこの木の箱がオルゴールだとわかったかと言えば、底に金色の螺子があったからだ。黙って考え込んでいた砂流が、思いついたように、箱をひっくり返してキリキリと金色の螺子を巻く。砂流が手を放すと音楽が始まった。黙って聞く。
 「何の曲だろう。聞いたことない」
 ぼつりと文都がもらす。
 「古い・・・東欧の曲さ」
 砂流がぽつりとつぶやく。じっと音楽に耳を傾けている。音楽はしだいにゆっくりになってゆき、そしてカチリと音を立てて止まった。砂流がオルゴールの蓋をあける。今度は軽々と何の抵抗もなく開いた。
 「どうして?」
 驚いて文都が声をあげる。
 「音楽が鍵になっていたんだろう」
 砂流はそう説明した。
 オルゴールの箱の中から、砂流は三日月の飾りのついた金色の鍵を取り出した。少しばかりほこりでくもってはいるけれど錆びついてはいない。
 「何の鍵だろう」
 ふたたび文都が口を開く。
 「たぶん・・・」
 しばらく鍵を観察していた砂流が何か思いついたようにつぶやく。
 「たぶん?」
 砂流にはわかったのか、と期待して文都は砂流の顔を見つめる。
 「たぶん・・・また、ひいおじいさんが隠しておいた暗号がどこかにあるのかも知れないな。その時まで、この鍵は大切に取っておかないと」
 「じゃあ、あの地図で手に入れられるのは、この鍵だけってこと?」
 ちょっと期待と違ったと文都は肩を落とす。
 「いいじゃないか、この鍵が手に入ったんだし」
 砂流は明るく言い放つ。
 「うん。でも、この鍵は一つだよ」
 そのことが文都には、ちょっと心配だった。せっかく二人で探し出したのに、一つしか宝物がないなんて。
 「いいさ、俺はこっちのオルゴールの方をもらう。この鍵は文都のものだ」
 砂流はオルゴールをこわきに抱えると、鍵を文都の方へ差し出した。
 「いいの?」
 文都は砂流を遠慮がちに見た。
 「いいさ」
 砂流はあっさりと鍵を文都の手に握らせた。
 「ありがと」
 文都は手の中の鍵を眺めて、うれしくなる。
 「じゃあ、お腹も空いたことだし、学校にランチでも食べに行こう」
 そう言って砂流は手を差し出した。文都は「うん」と言って、差し出された手を、いつものように握り返した。

       おわり