夏期学校 03

文字の大きさは、こちらで変えられます→ 小 | 中 | 大 |


夏期学校 〔少年図鑑シリィズ2〕

【第三話 貝の館】



 まず行きたかったのは海岸の側にある『貝の館』。色とりどりのあらゆる形の貝殻が、美しく配置され光で浮かび上がり陳列されたようすは、まるで硝子博物館か、高級なガラス・ギャラリィのようだ。
 世界中から集められたと言う何万種類もの、色も形も違う貝殻で芸術的な建物が作り上げられており、室内のどこに目を向けても、何かしら見たことのない貝を目にすることができる。
 薄暗い室内を先にゆく砂流の後を追いながら、文都は海底にいるかのようにひんやりとした室内を歩きまわり、人けのない陳列室を見てゆく。
 「知ってるかい? 貝と言うのは一生をかけて、それぞれが自分だけの美しい殻を作って死んでゆくんだよ」
 美しく配置された貝を見ながら砂流が、ふいにそう言った。文都は反射的に砂流の顔を見つめる。
 「こうして生きた証を残して死んでゆくんだ。美しい証を残してね」
 砂流は静かな表情でそう続けた。
 「そうなんだ」
 砂流の言った言葉に引かれて、文都は感慨深げに返事をした。
 「じゃあ、貝はそのために生きているの? ただ美しい殻の残すためだけに」
 文都は、たった一つの芸術品を作り上げるためだけに生きている貝の存在に、ひどく心引かれて砂流に聞いた。
 「そうだな。そうかもしれない」
 砂流も静かな声で答える。まるで耳にあてた貝の中から聞こえてくる、かすかな音のように静かな声で。文都は、そんな砂流の声を心地よく感じ、そのまま耳を傾けて砂流の声を聞いた。


第4話へと続く