夏期学校 06

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夏期学校 〔少年図鑑シリィズ2〕

【第六話 シャーベット】



 木陰に置かれたテーブルの上に肘をつき、レモンミントのシャアベットを口に運んで、冷たさを楽しんでいると、向かいの席に腰掛けて同じようにライム・シャアベットを食べていた砂流が言った。
 「もうすぐ臨海学校が始まるな」
 椅子の背に引っかけられているビニィルバックには濡れた水着やタオルが入っている。
 二人ともプールで泳いだ後だった。屋外の木陰は濃い緑の濃厚な香りがしている。砂流の声に引かれて文都が顔をあげると、砂流のまだ濡れている髪が、あちこち外側にはねているのが目に入った。僕の髪も縮れているかな、と気になって文都は片手で軽く波うっているくせ毛を撫でつけながら答える。
 「どういうのなのかなあ。上級生は船に乗るそうだけど」
 ちょっとうらやましげな文都の声に、砂流がくすりと笑いをもらした。
 「最初は上級生と同じ船に乗って小島に行くんだから、船には乗れるよ」
 シャアベットに入れられている蜂蜜の甘さを堪能するように、砂流はゆっくりと銀色のスプウンをなめている。
 「へえ、そうなんだ。詳しいね」
 シャアベットの上にふりかけられている、粉々に砕けた琥珀のようなキャラメルのカリカリとした感触を舌先で確かめるのに気を取られながら文都はあいづちを打つ。
 「楽しみにしているんだから当然さ。新しい仕掛花火を作ったんだ。それもとびっきりのやつさ。臨海学校の時に持っていくからさ、こっそり夜中に抜け出して二人で飛ばそうぜ」
 うきうきとした様子で砂流は文都に顔を近づけ、覗き込んでくる。
 「仕掛花火?」
 その言葉に興味を引かれて文都はすぐ目の前の砂流の目を見返した。
 「これ以上は言えないけど、文都もきっと気に入るすごいのなんだ」
 「ええ? 気になるよ。教えてよ、砂流」
 文都がそう言った時だった。頭上から突然、声をかけられた。
 「そんなに顔を近づけて何してんだ? 悪巧みか」
 いきなり頭をつつかれて、文都は砂流と額がぶつかってしまった。何するんだと、その声から相手がわかっていながらも振り向いてにらみつけた。
 予想どおり夏伽と詩都が立って見下ろしていた。もちろん頭をつついたのは夏伽の方である。
 「何してるんだよ、こんなところで」
 さっさと行けよとばかりの口調で文都は夏伽に向かって邪険に言った。
 「俺たちはデェトさ」
 「・・・科学館の帰りだろ」
 詩都が手にしていた図録から二人が科学館へ行ったんだと推測した文都は、夏伽のからかいを無視して言った。かわいげのないガキだな、と夏伽がぶつぶつ言っている隣で、詩都が笑っている。
 科学館の図録は色つきで精密な絵や写真が豊富に使われていて、解説も詳しいので文都も砂流も気に入っているため、よく利用して知っていた。
 文都をからかうのに失敗して興味を失ったのか、夏伽はさっさと注文台へと向かって行った。じゃあ、と言って詩都も後を追ってゆく。そんな二人の姿を見送りながら、それにしても詩都と夏伽は、あいかわらず一緒に行動して、その上よく、あちこちに行くなあ、と文都は思った。
 「あいかわらずだなあ、あの二人も」
 そんな文都の内心を読んだかのような感想を砂流がもらす。
 「やっぱり、砂流もそう思う? なんで一緒にいるのかなあ。詩都なら他にいくらでも、もっと良さそうな友達がいそうなのに」
 ちょっと憤慨気味にそう言った文都に対して、砂流はそんな簡単なこともわからないのかと驚いたように眉を上げて言った。
 「それは・・・一緒にいるようにしているからだろ」
 「なんだよ、それ」
 文都は砂流と会話がかみ合っていないことに気づき、会話を続けるのがめんどうになってきたため、溶けかかってしまったシャアベットの残りを食べてしまうことにした。


第7話へと続く