夏期学校 15

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夏期学校 〔少年図鑑シリィズ2〕

【第十五話 洞窟2】



 冥界のような暗闇をしばらく下りてゆくと、不意に立つことができる場所に出た。そこは青白い明かりがもれでてくる横穴だった。もう何も考えることはできず、文都は青白い光の方へと無意識的に足を動かしていた。

 そこは巨大な水槽だった。いや、最初足を踏み入れた文都には、そう思えた。けれど、だんだんと観察しているうちに、巨大な一枚硝子の壁を持つ部屋が海底に作られているのだとわかってきた。建物にして三階分以上はある。
 そこは薄暗く青白い空間だった。背後には黒い岩壁。前方にはそこに硝子があるとは思えない海の壁。どこにも人工照明らしきものは見当たらない。けれど、ぼんやりと明るいのは何故だろうと、文都は顔を上に向け、はるか上の方でゆれている海面に降り注いでいる太陽の光のゆらめきに気づいた。海面からの光が届いているのだとわかる。水中に潜って水面を見上げながら、ゆらめいているような感覚になってくる。
 ぼんやりと、そうして海底に目を向け続けていた文都は、目が暗さになれてきたところで部屋の中央に二人掛けの椅子が一つ置かれており、誰かが座っていることに気づいた。こちらには椅子の上部から頭が一つだけ見える。
 ここは人の家だったのかと文都は慌てる。けれど頭はぴくりとも動かない。文都が入ってきたことに気づいてはいないのだろうか。
 このまま気づかれずに帰ろうかと文都は迷う。
 「臨海学校の子だね。去年は誰もここを見つけられなかったのに、今年はずいぶんと早い発見だな」
 その落ちついた声が聞こえてきた時、まるで人魚かローレライの声を聞いてしまったかのように文都は驚いて動けなくなってしまった。相手は少しも動かない。文都の方を振り返りもしない。けれど、まるで文都をじっと見ているかのように話しつづける。
 「そんなに驚かなくても大丈夫。好奇心旺盛な少年君。ここまで来て、まさか私の姿を見ないで帰るってことはないだろう? 冒険者としては」
 そう言って声は続けて、くすくすと笑った。
 その声につられるように文都は椅子の方へ近づいてゆく。一歩、一歩と。
 「ここは・・一体、何なんですか?」
 気持ちを落ちつけるために文都は相手に話しかける。
 「見てのとおりの空間さ」
 「水族館ですか」
 「さあ、何とでも君の思った通りに」
 すぐ目の前に頭が見えた。
 「あなたにとっては何なんです?」
 「・・・隠れ家」
 そう言って振り向いた相手は、見たこともないきれいなスミレ色の両目をしていた。まるで宝石のような透明なスミレの色だ。


第16話へと続く