歌少年 01

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歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第1話 ガーデン~~~~



 その日は、フルゥツ・ガーデン(果樹庭園)でスケッチの野外授業が行われていた。庭園のほぼ真ん中に位置しているドーム型の硝子張りの大きな温室の中は、いろいろな南国のフルゥツのあまい香りと、南国の花々のあまい香りとが混ざりあった濃密なあまい空気で満たされていた。
 「おもしろい形をしているよね」
 文都は顔を近づけて、くるくると渦を巻いている植物の葉のような茎のような部分を興味深げにのぞきこみながら言った。若草色のセーターを身につけて、緑の植物をのぞきこんでいる様子は、まるで緑の妖精のようだな、と思いながら砂流は笑った。
 「早く描いて、果物を食べに行こうぜ」
 「どこに?」
 砂流の隣に腰を下ろしながら文都は聞き返した。
 「このフルゥツ・ガーデンでは、限定販売のフルゥツの小箱が売ってるんだ」
 「なんだい、それ?」
 興味を引かれて、文都は開きかけたスケッチブックを膝の上に乗せて、砂流の答えを待った。
 「色々なフルゥツが、すべて一口サイズに切られて、くり抜かれたフルゥツの中にぎっしりと隙間のないように詰め込まれているのさ。そんな状態でいると、それぞれのフルゥツ独自のあまい味が、お互い自分の味をくっついている相手にしみ込ませてしまう。
 だから林檎のような、オレンジのような、苺のような、メロンのような、葡萄のような、マンゴーのようなバナナのような、パパイヤのような、パイナップルのような、グレェプ・フルゥツのような、桃のような、アボカドのような、とにかくあまいフルゥツの味が混じりあった味がして絶妙なんだ」
 「ええ! 食べてみたい!」
 思わず文都は身を乗り出して、拳を握ってしまった。
 「だろう? でも限定品なんだ」
 自慢げに砂流は、にやりと笑いを浮かべる。
 「じゃあ、絵なんて描く前に、先に買いにいこうよ」
 文都は心配して、珊瑚色のスケッチブックを持ったまま立ち上がった。
 「大丈夫さ。この情報を知ってるのは少ないからね」
 砂流はそう言って、きれいに片目を閉じて見せた。
 「本当かなあ」
 それでもまだ疑わしげに文都は眉をよせながら、小首を傾げている。
 「それに〔小箱〕が出来上がるのは二時だから、早く行ってもだめなんだ」
 「そうなんだ」
 やっと納得したように、それでも未練があるのか、しぶしぶとした動作で文都は芝生の上に腰を下ろした。


    第2話へと続く