歌少年 03

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歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第3話 青い靴の少年~~~~



 青年は文都がはいている学校指定の青色の靴を、琥珀色の片眼鏡の奥から見て、意味深な声をもらした。砂流の方は自分のお気に入りのおしゃれな靴をはいている。こちらは青色ではない。
 「青い靴が、どうしたのさ」
 あまり興味なさそうに砂流は返事を返した。
 「・・・不吉だな、と思ってさ」
 青年のどこか楽しげな、からかうような口調に、文都と砂流は思わず顔を見合せ視線を交わした。琥珀色の瞳が片眼鏡の奥で、ちらりと光を放つ。

 「なんだよ、それ?」
 「知らないかい?
   ♪青い靴をはいた少年が森へ行った♪
   ♪そのまま帰ってこない♪
 こういう歌をさ」
 青年は軽く節をつけて歌ってみせる。
 「知らないよ。そんな歌、初めて聞いた」
 文都は知らなかった。それに自分と同じ少年だと言われて、うれしい内容の歌ではない。
 「続きは?」
 文都が口をとがらせていると、隣から砂流が質問をした。
 「さあ、これだけしか知らないんだ。たぶん続きがあるとは思うんだけれどね」
 琥珀色の片眼鏡をかけた青年は、謎掛けをしかけているような意味ありげな笑いを口元に浮かべて、ひょいと肩をすくめた。またしても片眼鏡の奥で琥珀色の瞳が、ちらっと光った。
 「なんだったのかなあ」
 せっかく手に入れた念願の〔フルゥツの小箱〕を両手で持ちながらも、「青い靴」と言う言葉の方が気になって、上の空の文都である。てくてくと砂流と並んで歩きながらも、ついつい話題は「青い靴」の歌の方へと移っていってしまう。
 「秘密好きなんだ。彼は」
 砂流はつぶやくように言った。
 「知り合いなの?」
 「何度か会っただけさ」
 「そういえば彼の名前は?」
 「知らない」
 何か考え事に気を取られているのか、砂流の返事はそっけない。
 「何をそんなに考えてるのさ」
 そっけない砂流の態度が気になって、文都は探りを入れてみた。
 「だって文都は気にならないかい? ??青い靴をはいた少年が森へ行った♪ そのまま帰ってこない♪??けど、どうして青い靴をはいた少年は森から帰って来なかったんだい?」
 「迷子にでもなったんじゃない?」
 「そんな単純なことだったら歌になんかならないさ」
 顎に手をあて、砂流は視線を前に向けたまま、じっと考え込んでいる。
 「じゃあ、もっと複雑なことがあったって言うの?」
 「たぶん」
 「どんな?」
 少しどきどき期待しながら文都は砂流の顔をのぞきこんだ。
 「これだけの歌詞じゃ、わからないな。もう少し何かないと」
 そう言う砂流の横顔を見て、文都は砂流「青い靴」に関する歌について調べる気なのだとわかった。
 「でも砂流のライブラリィになら、きっと文献があるよ」
 砂流を励ますように明るい口調で文都は言った。
 「歌に関する文献を探すのは案外、難しいんだぜ。古来、歌は口から口へと伝えられるだけで文字としては書きとめないものだったから。音楽と一緒で、歌やメロディーを書きとめる発想と技術が確立するまでの歌や音楽は、ほとんど失われてしまっているんだ。
 記録としては残っていない。ほとんどが滅んでしまった。もともと歌や音楽とは、消え行くもの、とどめてはおけないものと同意語だと思われていたからね」
 「そうだろうなあ。昔は録音機なんかなかっただろうし。文字だって書ける人は少なかったって言うから」
 少し残念だな、と感じながらも文都は、失われた音楽とは、どんな音色だったのだろうかと気になり思いをはせた。

 ちなみに〔フルゥツの小箱〕の味はと言えば、
 「天使のひとくちだったよ」
 それがフルゥツの小箱を食べた文都の感想だった.


         第4話へと続く