歌少年 06

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歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第6話 あまい香りは~~~~



 砂流はまた調べ物に戻ってしまったようだ。学校を休みがちになる。別に学校で会えなくても、放課後にライブラリィへ行けば会えるのだから、それは別にいいのだけれど、ただ、ずっと根を詰めているのが文都には気掛かりだった。
 砂流の体が心配になってくる。何か力になれないかと、文都は自分にもできることをあれこれと考えてみるのだが、なかなかいい案が思いつかない。砂流の力になれれば嬉しいし、何かしたい。
 こんなにも深刻に考えていると言うのに、あいかわらず気楽げに、ゆったりとテーブルを挟んで話している詩都と夏伽の姿を見て、文都はあまりの自分の深刻な状況との落差にため息が出た。
 入口に立っている文都の存在に気づいた夏伽が声をかけてくる。
  「知ってるか? アーモンドはもう一つの香りにも似ているんだぜ?」
 この間の続きか、と文都は身構える。
 「もう、その手にはのらないよ」
 そう言って文都は、そっけなくそっぽを向く。相手にしないでおこう。
 「死体の香り・・・」
 「え?」
 低く聞こえた夏伽のつぶやきに、文都は反射的に振り向いた。二人ともめずらしく真面目な顔をしている。
 「腐臭の香りは、あまいそうだ」
 夏伽が意味ありげに手元に置かれている分厚い本の表紙を撫ぜながら、ささやくように言う。かなり厚みのある革表紙の本は意味ありげだ。その本に書かれていたのか。文都は思わず夏伽の手元に視線を集中させる。と二人とも突然、爆笑した。
 「ほら、信じただろう? 俺の勝ちだな」
 夏伽は機嫌良く、詩都に片目を閉じて見せる。
 「二度目は信じないと思ったんだけどな」
 二人は文都の存在なんて忘れて、楽しげに勝手に話を続けている。
 「嘘だったの?」
 思わず腹が立って文都は二人に詰め寄る。
 「さあな。坊主、自分で調べな」
 夏伽は僕の頭の上に、ぽんと手をのせた。その大きな手を、文都はじゃけんに振り払って夏伽をにらみつけた。相手にして損した。やっぱり二人とも、ろくでもないことばかりしている。夏伽と付き合うようになって、詩都も絶対に性格が悪くなった。やっぱり、もっといい友達を作らせなくちゃ。
 そう思わずにはいられない。
 「つまんないことばかり、よく知ってるな」
 皮肉として、文都は夏伽にそう言い放つ。けれど、そう言ってから、ふと気づいた。くやしいが、ちょっとばかり長生きしていて、知ってることもあるみたいだ。しかも変わったことを。だから聞くだけきいてみようか。そんな気になったのは、何とか少しでも砂流の役に立ちたいと思っていたからかも知れない。
 文都は軽く咳払いをしてから、言ってみた。
 「あのさ。昔、昔の失われてしまって、記録にも、誰の記憶にも残ってないような歌とか、音楽とか、そう言うのってどこに行けばわかるのかなあ」
 「記録にも、誰の記憶にも残ってないような、かあ」
 そう言いながら詩都は、そのまま夏伽の方に顔を向ける。
 「そうだな、あそこならあるかも知れないぞ」
 夏伽はそう言いながら、詩都の視線を受け止めるように顔を見合わせる。お互いに思いついたことが、ぴったりと一致したことがわかったのか二人は微笑みを交わす。
 そうして詩都と夏伽が教えてくれたのは、「赤い靴」と言うアンティーク・オルゴールが置かれているオルゴール・カフェだった。

         第7話へと続く