歌少年 09

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歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第9話 歌の意味~~~~



 三十分間の演奏が終了して、店内に人々のざわめきが戻って来るやいなや、砂流は椅子から立ち上がり、青いオルゴール箱に近づいた。文都もあわてて後を追う。稀少なものだから、さわったりしたら怒られるのではないかと、はらはらする。けれど砂流は、そんなことはまるで気にしていないようすで、青い箱のまわりをぐるぐると何度も回ってのぞき込んでいた。
 文都は少し離れた所から観察してみる。大人の背丈よりは小さめの青い木箱には、車輪がついており、扉とは反対側には手で押せるような把手が付いていた。どうやらこの青いオルゴールは、よく街角で見かける移動式のオルゴールのようだった。
 「ほら、文都。見てみろよ」
 はらはらしながら店の人の方を見ていた文都の腕が、そう言った砂流の手に引っ張られてオルゴールの箱の側面を指し示された。示されるままに顔を近づけてみると、かすかにあまい香りを感じ、小さな古めかしい字体で、詩が彫り込まれているのが見えた。
    青い靴
 青い靴をはいた少年が森へ行った♪
 そのまま帰ってこない♪

 密猟者が緑の森へ入って行った♪
 木こりが黄色の森へ入って行った♪
 山賊が赤い森へ入って行った♪
 人買いが灰色の森へ入って行った♪
 靴屋が何もない森へ入って行った♪

 みんな何かを持って帰ってきた♪

 青い靴をはいた少年が森へ行った♪
 そのまま帰ってこない♪

 文都がのぞき込んだ青いオルゴールの箱の側面には、流麗な飾り文字で、そんな詩が刻みこまれていた。

 「そっかあ。オルゴールは音色だけしか奏でることができないから、ああして歌詞をオルゴールの箱に書き込んでおいたんだ。昔の人の知恵なんだね」
 オルゴール・カフェを出て小道を歩きながら、文都はたった今、見てきたばかりのオルゴールの雰囲気にすっかり酔いしれていた。小道に降り注ぐ金色の銀杏の葉が、くるくると舞い落ちる姿が、たった今見てきたばかりのオルゴールの上でくりひろげられていた人形たちの踊りを思い起こさせられて、思わずステップを踏みたくなってくる。
 「そうだな。ああして音色と詩とを人々から人々へと伝えていったんだろうな」
 感慨深げな声で砂流が答える。まだ謎のことを考えているのか、ぼんやりとしている。文都は砂流の前にまわって砂流の顔をのぞきこんだ。
 「まだ何か考えてるの? もう青い靴の歌詞はわかったのに」
 砂流は突然、文都の顔を目前にとらえて思わず足をとめる。
 「歌詞がわかっても、意味がわからない」
 「意味?」
 目の前の通りを、自転車の後ろに詩都をのせた夏伽が通りすぎてゆくのが文都の目に入る。車輪が枯れ葉をひいて、枯れ葉の音を撒き散らしてゆく。学校の帰りだろうか。
 その二人が遠ざかるのを見送りながら、文都は砂流の声に会話に引き戻された。
 「他の登場人物たちは,何を持って帰ったんだ? なぜ青い靴の少年だけが戻ってこなかったんだ?」
 さあ、と言うように文都は小首を傾げてみせた。砂流はそんな文都を、ちらっと見て言葉を続ける。
 「密猟者だの、山賊だの、人買いだの怪しげな人物ばかりが森へ入って行っていることも気になるし。歌の中でまともなのは、少年と木こりと靴屋だけだ。どういう意味なんだろう。特に気になるのが靴屋。それと青い靴の関係」
 「宝物の場所でもしめしているのかも」
 文都は砂流が深刻そうな顔をして考え込んでいたので、明るく言い放った。
 「青い靴が、宝物をしめしているって言うのか?」
 「うん。でも方角も場所も何も歌には書かれていないぜ。それじゃあ隠し場所をしめす暗号にはならない」
 ちょっと考えて文都は言った。
 「森の色が、いろいろ違うだろ? それが何か関係あるとか。赤とか黄色とか」
 「そうだよな。森の色も違うんだよなあ」
 砂流は両手を頭の後ろにまわした。
 「それにあのオルゴールの形から見て、たぶん広場かどこかで演奏して聞かせる形態のものだ。ちゃんと移動用の車輪がついていただろう? そんなに不特定多数の人間に宝の在り処を教えるとは思えないぜ」
 「じゃあ、やっぱり宝以外の何かをしめしているの?」
 「たぶん」
 後少しでわかりそうだと言うように、砂流は眉間に皺をよせた。
 「何を?」
 「さあ」

         第10話へと続く