歌少年 11

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歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第11話 翌朝~~~~



  翌朝、家を出た文都が目にしたのは、家のすぐ前の路上にとめた自転車の隣に立っている夏伽の姿だった。
 「なんで迎えに来るんだよ」
 文都はからむように言った。
 「けが人、一人で歩かせられないだろ」
 夏伽は当然、と言った表情である。
 迎えに来るのだったら、昨日わざわざ届けてやる必要なんてなかったんじゃないか、と文都は損をした気分になる。
 「残念でした。詩都は今日は病院へ行くんだ。学校には行かないよ」
 無駄足だったな、と文都は夏伽に舌を出した。
 「そんなこと知ってるぜ」
 夏伽は文都はからみを軽く受け流し、さっさと家の階段を登りはじめた。なんで今日はからんで来ないんだ、と夏伽の姿を目で追った文都の視線の先には玄関から出てきたばかりの詩都の姿があった。
 「あれ、夏伽。どうしたんだい?」
 小脇に鞄を抱えて手すりを使いながら歩き出していた詩都は、階段を登ってくる夏伽の姿をとらえると、目を丸くして驚いていた。
 「病院まで送ってくぜ」
 夏伽はさっさと詩都から鞄を取り上げ、手すりとは反対側から詩都の腰に手を回して階段を下りるのを手伝いはじめた。
 結局、無駄足だったのは僕だけか、と文都は二人には振り回されてばかりだ、と思わずにはいられなかった。





 「へえ、夏伽が? ・・孤独の一日が、やっと終わろうとしている・・かあ。なるほど、夏伽らしいな」
 妙に納得したように砂流が言う。
 昨日と今朝の二度に渡る出来事を砂流に報告しおえた文都は、ひとまずしゃべったことで気分がすっきりしたので、夏伽が読んでいた詩集について砂流に聞いてみた。どういう内容の本なのか、砂流なら知っているのではないかと思ったからだ。
 「何を納得してるのさ。僕にはさっぱりわからないって言うのに」
 「まあ、文都は子供だから」
 砂流は、どこか誤魔化すように視線をそらした。そんな態度はめずらしく、文都は見捨てられたような気分になってしまう。
 「何が! 砂流までそんなこと言うんだ」
 「褒めてるんだよ」
 文都の態度に砂流はあわてて言い足す。
 「どこが?」
 「だから、さ。ほら、単純なところ」
 「・・・」
 二人の間に沈黙が訪れる。
 「・・・純粋なところ」
 しばらくして砂流はそろりと付け足した。
 「やっぱり褒めてない」
 「だから夏伽にも悩みがあるんだろ」
 仕方がないと言うように砂流は言った。
 「あいつに?」
 「そうさ。確かだぜ」
 「信じられないな」
 「どうして? 誰だって悩みの一つくらいあるもんだろう?」
 「だってあいつは、向かうところ敵なし!怖いものなし!って態度だからさ」
 「そこが、かっこいいところ! だと文都は思ってるんだろ?」
 砂流にからかわれるように、そう言われて文都は、うっと言葉に詰まった。
 そうだ。夏伽のことは、ちょっとかっこいいと感じている。あんなふうになりたいと思ってる。けれど、認めたくはなかったのだ。自分がまだ子供で、とても夏伽のようなかっこよさは身につけられそうもないから。いずれかっこよくなるにしても、まだ「差」と言うものが歴然と存在している。
 それど、そのことを砂流に見抜かれていたとは以外だった。自分でもはっきりとは自覚していなかったことなのに。でも砂流に指摘されて気づいた。そうさ。夏伽のことは、かっこいいと思ってるさ。そうさ。そうさ。けど・・・いいじゃないか。ちょっとくらい、くやしがっても。まだ僕は子供なんだからさ。
 文都はそう思って、頬を膨らませた。
 そんな文都を見て、砂流はくすりと笑う。
 「そんなに文都には、かっこよくなられたら困るな」
 「なんでだよ」
 「だって俺も、もっとかっこよくならないといけなくなるだろ?」
 砂流は、そう言うと片目を閉じて見せた。


         第12話へと続く