歌少年 14

文字の大きさは、こちらで変えられます→ 小 | 中 | 大 |

ityouline.gif
歌少年 ~音楽の守人~ 

〔少年図鑑シリィズ3〕


~~~~第14話 音楽の守人~~~~



 二人ともふたたび黙った。
 うつくしいオルゴールに、そんな哀しく残酷な物語が秘められていたと言う事実が、二人の胸にしみわたった。
 そうして二人とも黙っている。
 ふいに疲れを取ろうとするように、砂流はプレートの上に残されていた焼きチョコレートの粒に手をのばして取った。口に近づけると、ほのかにあまい香りが漂う。
 「ああ、そうか・・・」
 砂流はつぶやいた。
 「どうしたの」
 つられるように文都が顔をあげた。
 「あの青いオルゴールの箱自体にも、歌の秘密を解く鍵は隠されていたんだ。今、気づいたよ」
 砂流は疲れたように笑った。
 「あのオルゴールの箱に近づいた時、かすかにあまい香りがしただろう? 文都は気づかなかったか?」
 「いや、気づいたよ。ほんの微かだったけれど、どこかで嗅いだことのある香りだと思ったもの」
 「・・・アーモンドさ」
 そうか。文都はとっさに思い出した。あの青いオルゴールの箱は、アーモンドの木で作られていたのだ。あの時、かすかに嗅ぎとったあまい香りは、アーモンドの香りだったのだ。
 「ああ、それで」
 文都はかすれた声でつぶやいた。どちらからともなくお互いの顔を見る。二人の脳裏では同じ言葉が思い出されていた。
 ・・・アーモンドは死の香り。






 「そう言えば、あのフルゥツ・ガーデンの人にいた琥珀色の片眼鏡の青年は、初めからこのことを知っていたのかな。だから不吉だな、だなんて言ったのかなあ」
 あれから何日かたって、文都は砂流に答えを求めるでもなく言ってみた。
 文都のそんなつぶやきを砂流は黙って聞く。砂流からの答えはない。バイトはやめてしまったのか、あれ以来、あの片眼鏡の青年には会えずじまいだ。
 しかしあの青いオルゴールの方は、今でもまだあのオルゴール・カフェにあり、演奏を続けている。すでに、その由来は忘れ去られ、今では美しさだけが残されていて、人々を魅了し続けていた。

      おわり

(引用元著作権の表示)
 物語の中で夏伽が読んでいた緑色の詩集の中の詩は、東洋文庫「ミール狂恋詩集・中世インド抒情詩」著・ミール、訳注・松村耕光 平凡社(2575円)より引用させていただきました。神様への信仰を恋のように歌っている詩集です。