絵の中の記録 03

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絵の中の記録 (ユリ・シリーズ)

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 「こんなことってあると思うか?」
 オレは、あれ以来、このカフェに来るたびに、気にかかってしまう絵のことについて、同じゼミを取っている友人の加賀野に話してみた。
 「そりゃ、デジャブとか言うのじゃないのか」
 加賀野は気楽そうに、銀色のスプーンでコーヒーとミルクをかき混ぜつつ、そう答えてきた。
 「既視感ってやつ?」
 加賀野の隣に座っていた由良が確認をしてきた。この由良と、さらに隣に座っている大柄な男とは、オレは特には親しくはない。同じゼミは一個だけだし。
 でもオレの友人である加賀野とはけっこう親しいようで、今日もオレが一人でカフェに座っていたら、三人で現れて加賀野がオレに声をかけたものだから、なりゆきで同じテーブルにつくはめになってしまったのだ。
 「そんなんじゃないさ。だってオレには見た記憶がちゃんとあるんだぜ。何となく見たことがある気がするってだけじゃないんだからな」
 「そうだな。風景だけなら既視感ってことも考えられるが」
 由良の隣の男が、低い声でつぶやいた。なんて言う名前だったのか思い出せない。ちょっと恐そうな威圧感がある奴だ。深い藍色の目で見られると、何だか睨まれているような気分になってくる。加賀野も、どうしてこんな奴と親しくなったんだか。由良の方は穏やかそうな感じだから、友人になるのもわからないではないが。そういえば、いつも由良のことを、ユリとか呼んでいる。変わった奴だ。
 でもまあ、既視感ではないと言うオレの主張を後押ししてくれたのだから、良しとしよう。男は低い声で、そのまま独り言のように言葉を続けた。
 「特に印象に残る場面ではない・・・美しいわけでも、珍しいわけでもない。それなのに記憶に残っていたと言うことは、この光景を目にした時、何か気にかかることがあったってことだろう」
 「ひっかかること? たとえば、どんな?」
 加賀野が、聞き返す。
 「それはわからんさ」
 男はあっさりと答えた。
 「そんな無責任な」
 加賀野はあきれたように言い放つ。
 「その牧師だか神父さんだかがさ、すごく、かっこよかったとか?」
 由良が横からそう提案してきた。
 「そんな記憶はないけど・・・」
 思い出そうとしてみるが、服装ぐらいしか思い出せない。顔までは覚えていない。
 「まだまだ、めずらしい女性だったとか?」
 「男だと思う」
 それは確かだと思う。女の人だとは今まで考えもしなかったけれど、男の体つきだったような気がする。
 「じゃあ、どうして記憶に残っているのかなあ」
 由良はあきらめたように、頬杖をつき、白いティーカップに手をのばした。すると、隣で黙っていた男が、ふたたび口を開いた。
 「この絵の場所は、どこなんだ?」
 「・・・それが・・・覚えてないんだ。ヨーロッパのどこかだとは思うんだけど」
 オレはためらいがちに答えた。
 「それは絵を見ればわかるさ。少なくともアジア、アフリカ、アラブ地域ではないよな」
 加賀野が絵を見上げながら言った。
 「まあ、それはそうだ。もう少し細かくはわからないのか?」
 「うーん」
 そう言われても、もうさんざん思い出そうとしたのに思い出せないのだから無理だ。
 「建築学部の先生なら、建物の形から、どこの国かわかるんじゃないのかなあ。農家の納屋みたいではあるけれど、何となく特徴がありそうだし」
 由良はそう言うと、ゆっくりと紅茶を飲み終えた。すでに他の奴らのカップは空になっている。
 「ちょうどいい人が来たみたいだしさ」



その4へ続く