絵の中の記録 04

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絵の中の記録 (ユリ・シリーズ)

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 そう言いながら由良は、カフェの入口を指差した。振り返ると、ちょうど建築学部の講師、六角堂が一人で入ってくるところだった。
 セルフサービス式なので、カウンターでコーヒーを受け取り、席を探しに近づいて来た六角堂に、加賀野と由良が、にっこり笑いながら片手をあげて「一緒にいかがですか~」などと誘っている。
 愛想のいい加賀野と、穏やかそうな由良に笑顔で声をかけられて、まだ若い講師は「それじゃあ、お邪魔するかな」と上機嫌で二人の間に腰を下ろした。
 まだ若い六角堂は、気さくで話しやすいタイプの講師で学生からの人気も高いようだ。学生たちと一緒に昼食を取っている姿をよく目にする。
 加賀野が、頼みもしないのに、壁にかけられた絵を指差しながら今までの経過を六角堂に説明している。こんなこと講師には興味のないことだろうと思っていたが、六角堂は興味深気に、何度も頷きながらにこにこと笑顔で聞いている。
 「そうか、そんなことがあったのか。それは興味深いことだね」
 「そうでしょう、先生? それで、あの絵の描かれた場所を知りたいんですけど、あの絵だけでも何とかわかりますか?」
 加賀野の質問に、六角堂はうれしそうに笑ってしゃべり始めた。
 「あの納屋の建物は、わりと特徴があるから推測できるよ。フランスの北部に多く見られる様式だね。薪がたくさん積まれているだろう? あれは長い冬に備えての物なのさ」
 そう言って六角堂は、コーヒーを一口飲み、カップを皿に戻してから、ふたたび話を続ける。
 「それにあの中庭は、寒さ避けのためなんだ。風通しを少しでも悪くするって言うのかな、冷たい風を防ぐために四方に建物を立てているんだ」
 「へえ、そうなんですか」
 感心したように加賀野があいづちを打つ。 
 「それにヒントはまだあるんだ。あの地方では、いまでも、ああ言う木製の荷車が使われているんだよ」
 「へえ。あの風景画から、そんなことまでわかるなんて、すごいですね」
 由良が感心したように、六角堂を見上げている。
 「まあ、あの絵に描かれている家屋が、典型的な特徴を持っていたと言うのも大きいがね。で、僕の説明は、君たちの役に立ちそうかい?」



その5へ続く