絵の中の記録 06

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絵の中の記録 (ユリ・シリーズ)

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 「それにしても、こんな農家に何しに行ったんだい?」
 話題が膠着してしまったのを、転回しようとでもしたのか、六角堂がふいにそんなことを聞いてきた。
 「いえ、それも・・・よく思い出せないんです」
 「お前も物好きだよな。こんなど田舎にわざわざ行くなんてさ」
 加賀野がおかしそうに笑いながら言う。
 「わざわざ行った覚えはないさ」
 「じゃあ、きっと手作りチーズかバターでも作りに行ったんじゃないのかなあ。ほら、こういう田舎の農園なんかで、よくしてるだろ?」
 由良が、にこにこと笑顔で言ってきた。
 「それはオレも最初に考えたよ。そんなところなのかな、てな。でも、それなら記憶に残ってそうなものだけどな。行った場所はともかく、バターを作ったってことぐらいはさ」
 「参加はしてないんじゃないのか」
 またしても、それまで黙って由良の隣に座っていた奴が口を開く。どうしても名前は思い出せないでいる。
 「って、どういうことだ?」
 加賀野の問いに、男はふたたび口を開いて説明した。
 「一緒に旅行に行った奴だけが参加して、あんたは興味がなかったから参加
せずに農家の庭をぶらついていたってとこじゃないのか」
 「それならありえるかも」
 海外なんて自分から計画を立てて行くことはない。今までつきあった女の子たちに、その時々に誘われてついて行っただけだから。彼女たちにしてみれば、ボディーガード代わりと言ったところだろう。まあ、それでもオレは、いろいろな所を、ぼおっと見るのは好きだから、誘われれば、つきあっていたが。 
 「まったく、おまえのことだから、酒でも飲んでたんじゃないのか?」
 からかうように、加賀野が、にやにやと笑いながら口を挟んでくる。
 「あの辺りは、上質なワインの産地だからね。ご当地とあって、かなりいいワインが手に入るんだ。私も昔フランスに留学していた時に、わざわざ郊外の農家まで買いに行ったものだよ」
 楽しかった昔を思い出しているのか、六角堂は機嫌良く説明している。
 「じゃあ、バター作りじゃなくて、ワインを飲みに行ったんじゃないのかい?」
 由良が楽しそうに口を開く。
 「だったら、こいつの記憶に残ってるはずだぜ。酒には目のない奴だからな」
 加賀野が、またしてもおかしそうに笑って、人をからかいのネタにしている。だが、本当のことだから、何も言えない。ワインを飲みに行ったんだとしたら、オレの記憶に残っているはずだ。その記憶がないと言うことは、やっぱりチーズだかバター作りについて行ったんだろう。
 「まてよ・・・?」
 何かひっかかるものを感じたのか、何やら考え込んでいた六角堂が、ふいに口を開いた。



その7へ続く