絵の中の記録 07

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絵の中の記録 (ユリ・シリーズ)

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 「そう言えば、この窓のない建物は、酒蔵じゃないのかな。窓のない建物は酒蔵の特徴でもあるんだよ。日の光を浴びると、ワインは色が変わってしまうからね」
 六角堂の言葉に、加賀野が確認するように問い返す。  
 「でも、さっきは藁とかを入れておくところだって、おっしゃいましたよね?」
 「ああ。普通の農家ならね。形は似ているから。酒蔵に使っている農家の方が少ないぐらいだろう。こういう建物は、一般的には、普通の農家の納屋だと判断するところなんだが・・・」
 「が?」
 「これは絵描きが描いた絵だろう? 絵描きが、何のテーマもない風景を描くものかね? まあ、きれいな景色ならともかく、もしこの建物が納屋だとすると、ありふれた農家を描いたことになる。そう考えると、ワインの産地のワイン蔵を描いた絵だと考える方が、自然な気がするんだが。どうだろうか?」
 六角堂の問いに、みんな黙り込んだ。 
 「そう考えるのが自然な気がしますね」
 加賀野が、みんなの意見を代表して答えた。
 「きっと産地特産のワインも飲めて、バターやチーズも作れるところだったんじゃない?」
 由良が明るい口調で、そう言った。
 「それだぜ、きっと! 自然体験農園とか言うやつだぜ。あ、でも、ワイン蔵の隣に牛小屋があるなんて、なんかワインに匂いがつきそうで嫌かもな」
 加賀野が、嫌そうに顔をしかめた。きっと想像したんだろう。想像力のある男だから。
 「そんなことは、地区のワイン協会から許されないと思うよ。あの辺りは、世界的に有名な上質ワインを作っているところだからね。蔵の隣に家畜小屋なんて、とんでもないことさ」
 加賀野が真剣な表情で、そう否定してくる。
 「じゃあ、そういうワインを作っている農園は、当然、部外者は立ち入り禁止なんだろうな」
 それまで黙っていた男が、六角堂の方を向いて、そう聞いた。
 「その通りさ。コネがないと入れてもらえないんだ。僕も農園の息子と同室だったから、頼み込んでやっと連れて行ってもらえたぐらいだからね。まあ、ワインのイメージを高めるための品評会でも開催してるなら、別だけれどね」
 「そうか。それなら考えられることが、ひとつあるな」 
 由良の隣に座っていた男が、そう意味深なことを言った。 
 「牧師だか神父が、何のためにワイン蔵にいたのか。そして、部外者が入れないはずのワイン農家に、どうして外国人旅行者が入っていたのか」
 「え、わかったの?」
 由良が驚いたように、隣の男を見上げる。隣の男は、軽く頷いてみせると、ゆっくりと口を開いて説明し始めた。



その8へ続く