廃都 10

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~廃都 10 ~




ひとは自分を守るために要塞である都市を造ったはずなのに。
そのなかにいてもなお、傷つけられることから、のがれることはできない。





 おれはその日、一人で湖に行った。泳ぎにいったのだ。服を全部脱ぎ捨てて、水に近づく。足の指先で水にふれてつめたさを確かめる。そのあと足首まで入ってみる。おれは自分の足を見下ろした。きっと一生消えることのない足輪が俺の足首にはくっきりと付いていた。
 しゃがんで溝のように足首をぐるりと一周しているくぼみをなぞってみる。ものすごくきつくずっと縛られていたせいで、こんなふうになってしまったのだ。
 政権とやらが変わるたびに誰かが売国奴になって、なぜだかわからないけれど、おれは子供だったのに捕らえられた。少年は男になって自分たちの敵になることが多いから、子供でも容赦されないそうだ。それに近頃の子供は昔より手がつけられなくて、悪い、凶悪な性質だそうだ。昔の子供はやんちゃで、わるがきなだけだったと言っている。
 おれは胸まで水につかると、泳ぎはじめた。  



     ・  ・  ・  ・  ・  ・


 今日、また泳ぎに湖に行くと、なんと先客がいたんだ。それもセンブレアとグランダおじさん。センブレアが泳げるなんてちっとも知らなかった。水のなかではずっとはやく進んでゆくんだ。
 ふたりは湖に浮かべたボートの上に水浸しのままはいあがって楽しそうに笑っていた。その後、また水のなかに飛び込んで泳いでいた。
 グランダおじさんが水中からセンブレアの足をひっぱると、センブレアはお返しに、グランダおじさんに後ろからのしかかって沈めた。センブレアは、地上では飛び上がることなんて出来ないんだけど、水のなかではうまいこと飛び跳ねて、相手にのしかかることも出来たんだ。
 俺も仲間に入りたかったけれど、何故だか俺は二人のそんなようすを、ただずっと気づかれないように見ていた。
 ぼんやりと見ながら、友達と遊ぶのって、あんなに楽しそうな感じなんだろうかと思った。小さいころ兄さんと遊んだことはあるけど、すぐに兄さんはいなくなったし、近所にも俺と同じぐらいの同性の友達なんていなかったと、このときになって俺ははじめて気づいたんだ。
 遠慮のいらない、それでいて相手を思いやっているような、見えない何かが存在しているような、気軽で、信頼できる仲間と言うか・・・家族と似ているけど、家族とは違う・・・
 そう。まるで同じ秘密を持った、いたずらの秘密を持ったような友達だ。
 ここには、友達はいないんだろうか。もう最近では、誰も見かけなくなった。おれたち家族だけだ。おれは明日からもっと遠くに、人を探すことにした。もちろん人というのは、友達のことだ。


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 おれが、探検だ、予定だ、計画だと言っているのを聞いていたセンブレアが、本を贈ってくれた。「ロビンソークルーソー」という本だ。
 本なんかつまらないと思ったけど、ありがとうと言っておいた。だって、じゃけんに突っ返したりしたらセンブレアが悲しみそうだったから。
 でも、おれは文字はあまり読めない。と、思っていたけど、それはセンブレアの読んでいる本を見ていてそう思っていただけだったんだ。この本はおれと同じで冒険と探検をしてる。今のおれにぴったりだ。わからないところもけっこうあったけれど、一気に最後まで読めてしまった。友達がいたら、友達にもこの本をすすめるのになあ。
 そうだ。明日から探検に行くときは、この本を持っていこう。だって友達に会えるかもしれないし、会えたときにすぐに見せられるだろ。



廃都11へ続く