廃都 13

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~廃都 13 ~




ひとは自分を守るために要塞である都市を造ったはずなのに。
そのなかにいてもなお、傷つけられることから、のがれることはできない。





 何年かが過ぎた。
 姉さんが死んで以来、小さな妹が死んだ。2人。3人。
 ひとり・・・そう、最初は一人死んだ。次も一人。ただみんな調子が悪いってこと。でも死ぬその瞬間まで、安心していられる。拷問で殺されることはない。
 みんな調子が悪いせいか、それぞれのお気に入りの部屋にこもっていることが多くなった。もう長いこと誰とも会っていない。
 いつだったかセンブレアのお見舞いに行ったっけ。センブレアは起き上がろうとしたけれどグランダおじさんに止められた。それを見て、おれはなんだか決まりが悪くなって、どもってしまった。調子が悪いんだ。おれはお見舞いの言葉もそこそこに部屋を出た。センブレアは笑いかけてくれたけど、無理をさせたくなかった。おれはなぜだか、部屋を出て、その場にそのままなんとなく、立ち尽くしていた。
 部屋のなかから声が聞こえてきた。センブレアの声だ。

 もうあなたの好きにしてください。ここにいれば、わたしたち家族は安全ですから。もう私たちの面倒は見なくていいのですから。どこかあなたの望む場所へ行ってください。
 センブレアの声は熱を帯びていた。
 おれはここにいる。それが望みだ。
 グランダおじさんが、静かに答える。
 少しの間のあと、またセンブレアのひそやかな声が聞こえてきた。


 ここへ来てから、とても幸せでした。わたしはそれでもいい。ですが、あの子のことが心配なのです。あの子とあなただけでも、ここを離れてください。あなたたち二人は健康です。どこへ行っても働けるはず。未来のあるあなたたちまで、こんなところで暮らす必要はないはずです。ここにいれば、確実に・・・


 センブレアはせっぱつまったような切望するような声で言った。
 グランダおじさんは、固い意思を込めた声ではっきりと、でもやさしく言い聞かせるように言った。
 もう手遅れだろう。たとえ手遅れでなくとも死はどこにいても訪れるものだ。おれは、ここですごすことが望みだ。おまえたちの側にいよう。ここはおだやかで安全だ。愛する者たちと、少しでも充実した日々を送れる。おれは他に望むものはない。
 その後、少し間があって、グランダおじさんは言った。


 センブレアよ、おまえは何を望む。

 俺はグランダおじさんの最後に言った言葉が耳に残っていた。


 ・・・おまえは何を望む。 不老不死も、大金持ちも、望みじゃない。人は、欲望の塊なのか。
 いつか知るだろう。幾万もの果てない望みではなく、望みは、ただ・・・
 ここは大きなお屋敷。広い庭。噴水もある。森もある。湖も。部屋数だってわからないほどだ。
 おれは今、一人で天涯付きのベットで、天涯にほどこされた優美な彫刻を眺めている。ほかの部屋で一族の人間はねむっているはずだ。なにしろ、みんな調子が悪いのだから。もう何日も会っていないけれど。でも調子が良くないのだから、会いに行かなくても、許してくれるだろう。



廃都14へ続く