廃都 14

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~廃都 14 ~




ひとは自分を守るために要塞である都市を造ったはずなのに。
そのなかにいてもなお、傷つけられることから、のがれることはできない。





 静かだ。ここはほんとうに静かだ。こんな静寂を味わえるなんて、ここは楽園だ。幼いころは、耳をつんざく爆音がするのが普通だと思っていた。静寂の意味を知った。
 誰にも傷つけられない。大きな屋敷に家族で住み、庭で野菜を作り、自給自足に近いけれど、召使もいないけれど、だけど、痛い目に会うのはいつ、拷問を受けるのはいつ、家族と引き裂かれるのはいつ、みんなを失うのはいつ、いつ、いつだ、なんて小さな針で胸をつつかれつづけることはないのだ。


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 雪を昔見た。白く覆われた内戦の街は、その日はすさんでなかった。楽園はきっと緑におおわれているのではなく、白い世界だろうと俺は思った。
 この街にも雪は降るのだろうか。そういえばこの都市は灰色をしていた。始めて見たとき、そう思った。人が打ち捨てたこの廃都の色は。
 灰色と白は、似ている。きっとこの都市は、人間がいないから楽園なんだ。天使もいないけれど。そのぶん、白くないんだろうな。
 そういえばもうすぐ妹の誕生日だ。それまでには元気にならないと。でもまあ、たとえ起き上がれなくても許してくれるだろう。病人なのだから。何を贈ろうか。そうだ。花を贈ろう。かわいいやつを。
 でもその前に、花を摘みにいく体力をつけなくては。だから少し休むことにしよう。


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 ああ、疲れた。眠くなってきた。眠ろう。ここでは、安心して眠ることが出来るのだから。略奪者も、人殺しも爆弾も銃弾もけっしてここには来ないのだから。
 神様、死後はどこへ飛ばしてくださっても結構です。今、ここで、楽園で過ごすことが出来たのだから。


     おわり