星の光は死の後すらも届く

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星の光は死の後すらも届く



 長い間、その星を見つめ続けた。俺にとって、その星は友人そのものだった。
 その小さな星を観測するために赴任した友人。だがどんなに離れていても、俺たちは無線機で話をすることができた。そうして本当にたくさんの話をした。
 その小さな星には友人しかいなかった。たった一人きりの住人だった。まだ調査中の星だったからだ。何度も夜空を見上げては、その小さな星を探したものだ。
 俺にとっては、一番きれいな星はその星で、一番大切な星もその星だった。
 だがある時、その星は急激な破壊に襲われた。脱出する機会は一瞬で失われた。
 無線機に向かって俺は、友人の名を呼びつづけた。
 「もうすぐ星の光も消えるだろう。私の命と共に」
 友人は無線機の向こうで、ひどく静かにそう言った。
 その友人の言薬に俺は、たまらない気持ちになって、友人の星を食い入るように見つめた。友人はさらに言葉を続ける。
 「ああ、今、明かりを消すよ」
 そうして無線機の音は爆音と共に途絶えた。

 俺は今も友人の星を眺めている。
 友人は確かに死んでしまった。彼の化身である星はすでに存在せず、光を放つこともなくなっている。けれど、まだ俺の元には、彼の星から光が届き続けている。もう星は存在しないと言うのに。
 あの光の源はもう存在しない。星界図では、彼の星の存在は抹消されてしまっている。
 事実崩壊してしまったのだから。
 だからこそ存在しないはずの星が、かつて存在していたことを知っているのは、もう俺ぐらいだろう。気にかけるのも。彼の光が存在している以上、俺はあの光を見てしまうのだ。友人がいた時とまったく変わらないあの小さな星を。
 存在しないはずの星からの光。まだ光だけが俺の元へ届き続けている。いずれ最後の光が俺の元へ降り往ぐだろう。俺はそれを見届けたい。


 小さな星が崩壊してから、何年もの時が経通した。
 今もまだ俺は小さな星を眺めていた。
 星を見ていた男の上に、ひときわ明るいまばゆいばかりの閃光が降り注ぎ、男は眩しさに目を閉じた。
 「今のは流れ星ではないですか。それとも星の爆発でしょうか」
 ちょうど男の側を通りかかった若者が、びっくりして男に声をかけた。だが男は目を閉じたまま何も言わない。いぶかしんだ若者は男の顔をのぞき込み、男の呼吸がすでにとまっていることに気づいたのだった。

 ふたたび夜空を見上げて、男が見つめていた星を見上げようとした若者は、さっきまでそこにあった星の光がなくなっていることに気づいたのだった。


          終わり