映像都市1

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映像都市

~1~


 シティ十七番街ルミナルス商店横の配信ボックスで、少年たちはそれぞれの端末機に、流行中の音楽を読み込ませた。配信ボックスは、遥か過去の本星の街に置かれていたという電話ボックスに似た外見をしていた。
 路上の片隅に設置された狭く小さな箱は、洗練された建物内でゆったりと豊富な配信を受けることができる環境に比べれば、貧弱な品揃えで粗悪な環境だ。けれども気楽にすばやく、しかも安いので少年たちにとっては行きつけの場所だった。
 配信ボックスは、大人ではひとり入るのが、やっとの狭い空間だが、小柄で細身の少年たちなら、二人入って身をよせあいながら話をすることもできた。
 少年たちが手にしているのは、辞書ほどの大きさの小さな箱だった。本のように開くことができる情報端末機だ。少年たちの生活道具であり、すべての教科書が入っており、遊び道具でもある。この端末機なくしては、生活はできないと言ってもよい。
 お目当ての音楽を入れ終えると、少年たちは狭い配信ボックスから楽しげに笑いながら出てくる。足元の半円形の石畳が続く銀杏の並木道を会話を続けながら歩いて行った。
 けれど、少年たちの足元の美しい模様を描く石畳も、黄金色の銀杏の並木道も、そしてかつて本星でパリと呼ばれた街によく似た街並みも、そのすべてが現実のものではないのだった。

 人体や環境に被害を与えると言われる物質は、次々と排除されるようになって幾世紀もの時が流れた。多種多様で豊富な建築資材を使うことはできなくなり、色とりどりの豊富な塗料も規制され、認められた資材でつくられた街中の建物は、どれも良く似た外見となった。
 それは白くのっぺりとした外見をしており、複雑な細工ができないために、まるでブロック細工のように単純で味気ない建物ばかりが街中を埋め尽くすこととなった。そのため、この時代に建築士という職業はなくなったと言われる。
 建物だけでなく、道路も何もかもが、この白い資材によって作られ、街は一年中、雪景色にも似た白い光景と化したが、白い箱が延々と続く様子は、雪とは違い美しくはなかった。
 そんな時代がしばらく続いた後、ある映像作家が街景色を一新した。それは壁や床や建物の白い単純さを生かしたもので、白い壁に映像を映し出すというものだった。
 白い箱が華やかな細工を施された宮殿に変わった。映像を作り出すだけで何の廃棄物も出さないのであり、映像は無限の資源となった。この技術は、あっというまに進歩し、映像であることがわからないまでになった。やがて建築物だけではなく、人々の身につける服すらも、真白な布に無限の映像を浮かび上がらせるようになった。すでにこの頃には、人々の身につける衣類すらも白い実用一点だけのものになっていたのである。ふたたび人々は様様なデザインの衣装を映像配信で購入し、自らの服として映しだした。こうして映像技術は全盛期を迎えた。
 そして最近では、映像に触れることができる触映像の技術も実用化されつつあった。
 本星の都市の歴史にくわしい人物なら、この街を見て言うだろう。「この街は19世紀末から二十世紀初めのパリに似ている」と。
 このパリにも似た街の姿が、すべて映像が映し出され、あるいは浮かび上がったものであることを、街の人々は知ってはいるが自覚はしていない。白い建物に映しだされた映像。立体映像の噴水。街路樹。そこに物は存在しない。

 さきほど配信ボックスから友人と一緒に出てきた少年は、友人がオレンジ・シガーを胸もとの内ポケットから取り出して口にくわえるのを見た。このお洒落な友人は、かすかにあまいオレンジ・シガーがお気に入りなのだ。特に南国産の銘柄を好んで吸う。友人いわく「後味を引かないところがいい」そうだ。
 吸ってしまった後は、残らず煙として消滅する。吸い残したシガーやシガーの入れられていた箱もほどなく空気に溶け込んで消えてしまう。この世界にふさわしい存在だ。
 いや、この星には普遍の物体など存在しない。すべては消滅するように作られているのだから。
 少年は、友人の吐き出すオレンジ・シガーの甘い香りを呼吸のたびに感じながら、友人に声をかけた。

 「あのさ、明日の授業の教科書をコピーさせて欲しいんだけど」
 またか、というように、友人はあきれた表情を作る。
 友人の視線は少年の端末機を、ちらりと眺め見る。そのまま、しばらく黙ったままでいたが、友人はいつもの質問をしてきた。
 「今度は何を入れたんだ?」
 友人の質問に、少年は首をすくめた。この頃はずっと同じ紺色の制服風の服装だ。その胸元で紺色のリボンがゆらゆらと揺れている。三角形の白い大きめの襟が二重になっているところが気に入っている。ちゃんと映像でも、ごく自然に見える。不自然なところはない。この部分が気に入って購入したのだった。
 映像は高級になればなるほど自然さを増す。だが財産を持たない少年たちでは、部分に凝るしかなかった。そんなにも高いものは買えないからだ。
 「・・・蝶の映像」
 少年は、ぽつりと小声で答える。
 少年はいつも何かの映像を収集したがる。そのせいで、いつでもメモリー不足だ。削るものがないからと言って、配信された教科書を削るものだから、宿題はいつも中途半端にしかできない。授業のたびに教科書を入れかえてまで何かを収集したがる気持ちが、友人には理解できなかった。
 「集めすぎだよ、ボウは」
 友人は少年の名を呼びながら、ため息まじりで言った。
 「たんなる蝶じゃないんだよ。ミラノリスの蝶の妖精なんだ」
 「そんなに高いものを買ってるのか」
 友人は、馬鹿なことにお金を使うものだと、あきれかえっている。
 「それで最近は誘っても、シガーを買いに行かないってわけか」
 「だって綺麗なんだよ」
 ボウは、言い訳っぽくなってしまいそうになるのを、懸命に説得にしようと胸元で端末機を抱え込んだ。彼の着ている服の映像はすべてこの胸元に抱えられた端末機から発せられていた。
 「そんなにもあれこれ集めて・・・楽しいか?」
 「うん。綺麗なものを見ているのは好きだよ」
 ボウだけではない。同年代の少年たちは、カードや植物や昆虫の映像、イラスなど、様々な映像をきそって収集している。
 「まあ、集めるのはいいとしても、過去に集めて、もう興味がなくなったのは消去したらどうだ? だいたいアルバムの容量が、どいつもこいつも大きすぎるんだよな。僕が目の前にいるっていうのに、どうして僕の映像が必要なんだ?」
 友人はそう言うと、オレンジ・シガーの甘い煙を細く吹き出した。
 「君との思い出を覚えておきたいからに決まってるだろう」
 ボウは少し腹を立てて答えた。僕のことなんて、どうでもいいと思ってるの、と言わんばかりに友人をにらみつける。
 友人は、しまったと言うように、ふいと顔をそむけて、別の話題に変えようとしゃべり始めた。
 「まったく、これじゃあ固体を集めていたって言う過去の歴史なんて、想像するだけで、ぞっとするな。どんな状態なんだ? 服一つにしたって、何百枚もどうやって保存しておいたんだろうな。日常品だけじゃない。趣味で収集したものや、気に入ったものなんか、膨大な量のはずだぜ。しかも一種類じゃない。人間よりも無生物の固体の方が多いなんて、都市に人が暮らすんじゃなくて、固形物を設置するために都市を作っていたのかな。まったく想像がつかないな」
 「それはすごいな」
 ボウには、固体物を所有すると言う感覚が不思議でしょうがない。いくら歴史で学んでも想像がつかないのだ。第一、永遠に変わらない固体物というものの存在が想像できない。半永久的に変化しない状態とは、どんなのだろう。だが、この感覚はボウだけではない。この時代の人々が一般的に所有する固体物とは、個々人に配給される端末機だけなのだから。
 「しかも、とにかく何でも固体物にしたがっていたらしいな。何しろ形を持たない音楽すらも固体物にして、形あるものとして扱っていたって言うからな」
 「音楽も?」
 意外な言葉に、ボウは腹立ちを忘れて興味を引かれた。
 「そう。人類は一時期、音楽と言う形のないものを、『CD』や『レコード』と言った形ある存在にして、手にいれて所有していたんだ。形をもたない音楽と言うものを半永久的に存在させようとしてね。もっとも、こんな不自然な音楽の存在の仕方は、そう長くは続かなかったけどな」
 「なんだか恐いなあ。形のない音楽を、無理やり形のあるものにしてしまうなんて・・・とても不自然で何だか・・・」
 ボウは思わず胸元で抱えていた端末機を、すがりつくように抱え込み直した。そんなボウを見て、友人はあっさりと、
 「固体物の発達していた文明の物語だよ」
 と言い放つ。
 「恐いじゃないか」
 「恐がることはないさ。もう、もとに戻ったんだからな」
 そう言って友人は、吸っていたオレンジ・シガーの短くなった残りを、指の間から落とした。オレンジ・シガーは街路へと落ちて行きながら粉々に消滅し、あとかたもなく消えた。オレンジ・シガーが消滅する情景を、二人とも無言のまま目で追う。
 「だけど・・・とても不思議だ」
 オレンジ・シガーが消えるのを見つめながら、友人は静かな口調で、ぽつりとつぶやいた。
 「本当に不思議だ。想像がつかないな」
 「同感だな」
 ボウの言葉に友人はそう同意して、肩をすくめた。
 「ところで何科目コピーしたいんだ?」
 「何の話?」
 友人の突然の話題の変化に、ボウは何の話をしているのか、わからずに首を傾げる。
 「教科書のことだ」
 「いいの?」
 ボウは、ぱっと顔を輝かせて友人を見返す。友人は、そんなボウの視線をそっけない態度で受け流しながら答えた。
 「いつものことだろ」

 ボウは友人から配信してもらった教科書を持って家に帰った。五階建てのマンションの一番上の屋根裏部屋だ。端末機を操作し、鍵番号を扉に照射すると、それを認識した扉が開く。ポストには目も向けずに室内へ入る。
 ボウの住むような貧しい者たちが暮らす地区では、ポストなどは単なる飾りにすぎない。したがってポストに、情報の爆弾攻撃を受けることもない。高級なマンションでは、外部からの強制配信情報を防御する機能を売りにするものもあるが、ボウが暮らすような下町の古めかしい建物に情報を送りつけて来る者はいない。貧しい者に情報を提供しても、何も買ってもらえないことがわかっているからだ。
 だがいたずらや、嫌がらせならある。もっとも最近では誰も使わないので、それすらもほとんどないが。
 室内の装飾はすべて、ここの大家の好みで統一されている。自分で変えてもいいが、ボウには興味のないことだった。映像が消えれば単なる白い長方形の組み合わさった塊に過ぎない場所だが、今は映像によって青い薔薇が描かれた優雅なソファとなっている場所に身を投げ出すように腰を下ろし、そのまま身を横たえた。床とは違い、多少やわらかい素材で作られている。
 端末機のスピーカーをそっと耳に近づけて、指先で操作する。やがて一つの楽器だけで奏でられる静かな音楽が聞こえてきた。
 かすれるよな、抑えられた音量はボウの耳に届いては消えてゆく。
 スピーカーの音量を下げ、耳をあてて小さな音を聞くのが、ボウのいつのころからの癖だった。まるで貝殻に耳をあてて海の音を聞いているかのような気持ちになって、心地よいのだった。もっとも実物の貝に耳をあてたことなどはないの。だが、貝に耳をあてて海の音を聞く少年の話を聞いてから、なぜだかずっと記憶に残っているのである。そうして真似をするようになっていた。貝殻から聞こえるという海の音とは、いったいどんな音なのだろうと、決して聞くことはできない音を想像しては切なくなってゆく。
 やがて眠りに落ちるように意識は途絶えていった。

 ひと眠りして気を取り直したボウは、夕食を取ることにした。ボウが棚から取り出したのは、ミルク・ボールとパンだった。透明な薄い膜につつまれた円球の中に液体のミルクがつめられていた。だいたいは一口で口に含められる大きさだ。口に含んでかみしめると膜が破れて中のミルクを飲むことができるのである。膜はそのまま噛んで飲み込む。飲みたいだけ、「ボール」を買えばいい。中身はちゃんと、いろいろある。
 ボウにとって友人は、いまいちよくわからない。友人の端末機の中は、ほとんどからと言ってよい。友人の端末機は空き容量が多いために、驚くほど速く動く。この冷静な友人は、決して情報を溜め込まないのだ。
 ボウの映像も、さんざん頼み込んでやっとひとつだけ端末機に入れてくれた。かなりしぶしぶだったが。ボウのことを一番の親友だと言うくせに、友人はボウの情報を自分の端末機に何一つとして入れようとはしない。そのことがボウには少しばかり不満であり、理解できないことだった。本当に何も入れようとしないのだ。
 この世界では大人も子供も、持っているものは常にひとつだ。それだけは変わらない。ぎらぎらと過剰なほどに反射してみせる装飾品を身につけた男の姿も、一番安い配給品のデザインの服を身につけた男も持っている物はただひとつだけ。端末機だけだ。どんなに金持ちでも端末機の大きさを大きくすることはできない。禁じられているのだ。「固体」を作ることを極力抑えるために。そのかわり裕福な人間は、より多くを記録できる高性能の記録片を使用している。
 この端末機が生活と財産のすべてなのだ。それなのに、あんなにも端末機の中がからっぽで、友人は不安にならないのだろうか。自ら財産を廃棄しているように思えて、ボウは心配になる。何と言っても、ボウは友人が一番好きなのだから。
 そっと端末機を引き寄せると起動させ、画面に友人の映像を呼び出した。最近二人で写したものだった。
 そのままボウはため息をもらし、キィを操作して宿題を解き初めた。友人が入れてくれたおかげで何とか宿題だけは終わらせられそうだった。ボウはなるべく回答が短くなるように、あれこれと工夫を凝らした。なるべく無駄なものは記録させたくなかった。もうボウの端末機は、同世代の少年たちと同じくいっぱいなのだ。
 ボウの財政状態では、このレヴェルのメモリカード(記録片)が限界だ。金持ちたちは、もっと大容量のものを持っていたが。
 ボウは新しい記録片(メモリカード)を手に入れるために、最近ひそかにアルバイトをしようかと考えていた。クラスメートたちから聞いた、高額なアルバイトの話が、ここ数日ずっとボウの頭から離れないでいるのだ。だが友人は反対するだろう。ちょっとばかり危険な香りがするものだから。
 ボウは、友人に知られないようにバイトをするには、どうしようかと考え初め、宿題はそのままうやむやに終えてしまった。

 「君の映像を撮らせて欲しいな」
 もし街中で、そう声をかけてきたとしたら、それは映像コレクターたちだ。彼らが求めるのは「精密な」映像のためのモデルだった。いわゆる「特別の」だ。
 最近では、より正確な感触を感じ取ることができる映像が人気である。布の感触。陶器、金属、植物、食べ物、その他などの感触、食感のリアルさが追求されていた。
 しかし映像コレクターたちが収集しているのは、無生物ではない。見かけも感触も実物と同じもの、実物そのものの「人間」の映像である。もちろん、そのためには映像を収集するときに、膨大な量の情報を集めなければならない。外見だけでなく、髪の毛から始まって、顔、腕、足など全身の情報が必要になる。
 が、個人の持つ端末機では、当然記憶させる容量が足りない。ある程度は正規ルートで記憶容量を増やしてはいるが、多くはダーク市場で取引されている違法なものが使われている。
 したがって、映像コレクターたちの仕事にかかわるのは危険だと言われていたが、同時に短時間で高収入が得られる効率の良いバイト先として、少年たちの興味を引いていた。
 たかが触れることができるだけで、定められた動きを再現するにすきない物言わぬ少年たちの精密な映像が、なぜ高額で取引されているのかは、少年たち自身には、さっぱり理解できないことだったが。
 だが、そう言いながらも、少年たち自身もまた自分の望む映像を手に入れるために、自分の映像と引き換えに収入を得ようとしていることには、気づいてはいなかった。
 だれも何故、人々が映像を集め続けるのかは、説明できない。だが、誰もが常に新しい映像を求めていた。
 その日も、ボウは、どうしたら映像コレクターと接触できるのか、ずっと考えていたので友人の話を何度も聞き逃してしまった。
 「どうしたんだよ、ボウ。今日はやけに乗りが悪いじゃないか」
 「ああ、うん。なんでもないんだ。ちょっと考え事、してただけ」
 「何の考え事さ」
 ごまかそうとしたボウだったが、友人は疑わしそうな目でボウを問い詰めてきた。
 「何って・・・たいした事じゃないよ」
 「そうは思えないな。何しろ僕の言葉よりも重要なことのようだからな」
 友人の声は冷たい響きをおびている。
 ボウは、黙り込んでしまう。それでも、友人を怒らせてしまったかな、と心配になり、そっと上目づかいで友人の表情を探ってみると、やはり機嫌が悪そうだ。頑固なのはお互い様だったが、今回はどう考えても自分の方が悪いので、何とかしなくてはと、あれこれ頭をひねる。
 「ねえ、ヒュイ。ハッカパイ食べに行かない?」
 とりあえず、友人の好みの食べ物で接近を試みてみる。ハッカパイとは、ハッカ入りのあまい果物のパイのことである。こってりとあまいのに、後味がすっきりしているのが特徴。濃厚なあまさと、さっぱりとした食後感が友人のお気に入りらしい。
 もちろんお菓子は透明なセロファンに包まれていて、すべて一緒に食べてしまって、後には何も残らない。
 「そうだな・・・」
 ちょっとばかりヒュイが機嫌を直しかけた時、二人の後ろからひび割れた声が割り込んできた。
 「君たちハッカパイが好きなのかい。私の家には、グレッサンドのハッカパイがたくさんあるんだ。 ちょうどたくさんもらってしまって困っていたんだ。良かったら我が家へ来ないかい」
 二人が振り返ると、太って小柄な初老がかった中年の男が、満面の笑みを浮かべて立っていた。皺だらけの手には金銀、宝石の指輪が見える。色とりどりの刺繍がほどこされたガウン風の上着と言い、一目で富裕層だとわかる。
 だが、その申し出は怪しすぎた。どう聞いても誘拐犯だ。ボウは逃げようと、ヒュイの腕を肘でつつく。グレッサンドのハッカパイには、かなり心引かれたが。
 「心配はいらないよ」
 男は、なんとか少年たちの警戒を解こうとするかのように、不自然な笑顔をいっそう強める。が返って少年たちは警戒を強める。
 「本当に心配しなくていいんだよ、誘拐しようって気はないからね。ただ、君たちの映像を撮らせて欲しいだけなんだよ」
 男の言葉に、ボウは足をとめた。友人の方を見ると、同じく気づいたらしいヒュイは、ボウの耳元でささやいた。
 「映像コレクターだ」
 この男が!
 ボウは衝撃を受けて、男の顔をまじまじと見まわした。違法な記録片は、いったいどんな形をしているんだろう。どこに持っているのだろうと気になってしかたがない。
 興味津々なボウの態度に、ヒュイはあきれたように、ボウの耳をひっぱって言い聞かせる。
 「わかってないな、ボウは」
 「何が?」
 ボウはヒュイの方に身をよせて、男に聞かれないよう小声でささやいた。
 「こんな奴と関わりになるべきじゃない」
 「でも・・・ヒュイは見たくない? 記録片をたくさん持ってるんだよ」
 「別に見たくないね」
 ためらいながら口にしたボウの問いを、ヒュイは冷ややかな口調で否定した。
 「でも・・・」
 なにやら相談を始めた少年たちを、男は自信ありげにゆったりと構えて待っている。
 「・・・わかったよ。ただし、これっきりだからな。これから絶対一人で行かないって約束しろよ」
 ほっておいたら一人でもついて行きそうなボウの態度に、ヒュイはしぶしぶと言った態度で妥協した。この興味の塊のような友人を放って置くと何をしでかすかわからなくて、見ていられなかったのだ。大怪我をする前に、ちょっとばかり危険を味わっておく方が、警戒心がついていいだろうと判断した。
 二人の言い争いが終わったのを見て、男はゆっくりと今度は本物の笑いを浮かべた。なりゆきが気に入ったようだ。ゆっくりと笑いを浮かべ、
 「もちろん二人一緒でいいんだよ」
と満足そうに告げた。

 その2へ続く