おひな様とお花

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おひな様とお花



 お雛様をはやくしまいなさいと、お母さんに言われた。三月三日が過ぎたらすぐに片付けないと、お嫁に行くのが遅くなるわよ、と。
 でも、お雛様たちは、一年中、真っ暗な箱の中で、暗くて湿った倉庫の奥にしまわれているんだもの。せっかく明るいお部屋に出してあげたのだから、もう少しだけ、このきれいな世界にいさせてあげたいの。
 良い香りのする桃の花は、たくさん見せてあげたけれど、あと少しで満開になる梅のお花も、たくさんたくさん見せてあげたい。
 それからね。薄紅色の桜の花の舞う姿も。
 見たいよね。
 せめて桜が散るまでは、この場所にいさせてあげたいなあ。
 春の香りで、着物をいっぱいにしたいし。倉庫の中に入っても、あったかい春の香りに包まれて眠れるように。

 お母さん。私はね、お雛様たちにきれいなお花を見せてあげるためなら、お嫁さんになるのは、少しぐらい遅れたってかまわないんだよ。


               おわり